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「あらあら、ごめんなさい。ご近所さんじゃないから、別荘の方よね? こんなことまでしてもらっちゃって」
怒涛の展開に出るタイミングを逃していたらしい、美代がようやく、こちらにやって来た。
「えっ、別荘って、もしかして?」
バスの中からも、そして今、一花の目からも、山の天辺に浮いて見えているシンボリックな白亜の御殿のことだろうか?
「困ったな。建物が悪目立ちしているから、顔が割れやすいようだ」
すかさず青年が毒づいた。
特に言及がないということは、その白い大きな建物が彼らの別荘なのだろう。
「いっちゃん、危ないところに、この方々がいて、本当に助かったわね」
祖母は一花を心配してはいるが、ちゃっかり、口の端は上がっていた。
まるで、こういう展開を期待していたかのようだった。
――イケメンに抱っこしてもらえて、嬉しいでしょ。いっちゃん?
暗に、そう言われているような気がした。
(もう……だからね、私はいいのよ。おばあちゃん)
葉山に来たのは、厭世的な気持ちが強かったからだ。
人と関わることが、しんどくて仕方ない。
一花には、ゆとりが、ないのだ。
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