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 目的地のバス停。  腰を上げるのが億劫で、一瞬、このまま降りないでいようかと、本気で考えたものの……。  窓の外……見下ろした場所に立っていた人物の存在で、一花の後ろ向きな思考はすべてまっさらに消し飛んだ。 「……おばあちゃん!?」  夏色の海を背にしたバス停の前には、一花をこの地に導いた張本人の祖母・美代(みよ)が実年齢より若々しい溌剌とした笑みを浮かべて立っていた。 (あー……もう、何やっているのよ!)  いくら、若く見えるとはいえ、この真夏日に、弱い七十を越えた美代に無理をさせる訳にはいかない。  一花はキャリーケースを引いて、一人目立っている花柄ワンピース姿の祖母のもとにひた走った。 「おばあちゃん! どうして? 私、迎えはいらないよって言ったのに!」 「早くいっちゃんの顔が見たかったのよ。本当に来てくれるのかなって」 「行くったら、行くよ。当然じゃない」  先程の憂鬱さをかなぐり捨てて、一花はむきになって反論した。  実際、美代の申し出に乗るくらいしか、一花の生きる道はないのだ。  住んでいたアパートは退き払ってしまったし、少し前に仕事だって辞めてしまった。  行くあてなんて、何処にもないのだ。
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