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出会って二時間も経っていないのに、一花のプライベートスペースを、土足で踏みにじった挙句、死にたがっているだの、自分でも漠然と感じていただけの、ネガティブな性格部分まで、明るみに出されてしまったのだ。
それなのに、一花は彼らのことを「上の別荘に住んでいる人」以外、知らないなんて。
「あのー……」
「だから、何でもないって言っているだろう」
「いや……。そうじゃなくて。今更ですけど、せめてお二人のお名前をお伺いしたいと思いまして」
口にしてみてから、自分でも遅い質問だったと、後悔した。
一花の早く追い出したい気持ちだけが先行して、肝心な質問をしていなかったらしい。
青年は軒先の柱に寄りかかって、押し黙ったまま、ハーブティを一気に飲み干した。
(えっ、まさかの無視?)
横柄そのものの態度にすっかり閉口している一花の顏前に、すらっと聳え立った執事らしき男は、相変わらず胡散臭い微笑で丁寧に彼の気持ちを翻訳してくれた。
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