2、赤い花

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2、赤い花

「まったく、お前は、鈍臭い子ねえ……」  ――最悪だ。  また見られてしまった。  頭上から視線を感じた時、子供時代の一花は身体を小さく竦めて、自分を守ることに専念していた。  日頃のストレスから攻撃的になっていく母と顔を合わせたくなくて、近所の神社の境内に夜中まで居座っていたこともあった。  大人になっても、怯え癖がついてしまったのは、そんな子供時代に理由があるからだろう。 (しょせん、言い訳だとは分かっているけれど……)  キャリアウーマンで、一花が九歳の頃からシングルマザーの母は、何をやらせても、常に自分より倍以上の時間を掛けないと出来ない一花を、明らかに侮蔑していた。  見ているだけで、一花のやっていることに苛々するらしい。  それは、一花だって同じ気持ちだった。  どうして、自分は血の繋がった母と、こんなにも違うのか?  それは、勉強や運動、音楽や料理、裁縫……どれを取っても、同じだった。  せめて、一芸だけでも秀でていたら、自己肯定感を手に入れることも出来たのかもしれないが、悲しいことに、一花に得意と呼べるものは一つもなかった。
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