2、赤い花

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 お前は「無能」なのだと、どの面を下げて生きているのだと、責められているような気がしてならない。  一花の表情が、どんより曇っていることを気づいてしまったのか……。  美代は、殊更声音を優しく、丁寧に言ったのだった。 「いっちゃん。食事というのはね、一人だけの時は、味気ないものなのよ。食事の「食」は人に良くって書くでしょう。人を良くする事、良くしてあげる事が「食事」なのよ。みっちゃんには、おばあちゃん、ここでゆっくりして欲しいって、ちょっと、はりきっちゃっているだけなの。ここに泊まりにいらっしゃるお客様たちにも、おばあちゃん、同じ気持ちで接しているのよ」  ………………人を、良くすること。  まさしく、今、美代が一花にしてくれていることだ。  統真も、一花に規則正しい生活を心掛けろと話していた。 (よく分からない男の子だったけど、正論ではあるしね。治るものなら、治さないと……) 「うん。いい歳してこんなこと言うのも、痛いけれど、なるべく早く自立できるように、私……頑張るね。おばあちゃん」  一花は意識して口角をあげた。
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