2、赤い花

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 美代の盛りつけたお皿を居間のテーブルに運びながら、一花は自分を鼓舞していた。 (とにかく、一つ一つ、自分に出来ることをやっていくしかないのよ)  久々の栄養たっぷりの食事を、お腹いっぱいに食べてから、一花はとりあえず、庭に出て洗濯物を干すことにした。  葉山の風は、ほんのり塩っぽい、海の香りがする。  洗濯竿に干したら、洗濯物はよく乾きそうだが、湿気も多いので、さっぱりとはいかないかもしれない。  柔らかな風を一杯に受けていると、潮風の中に、ほんのり花の香りが混じっていることに気づいた。  きっと、これこそ「香花庭」の自慢なのだろう。 (ああ、爽やかな香り……。これは)  昨日のハーブティと同じ。  すぐ横に目を向けたら、縁側から統真が眺めていた、レモングラスが視界に飛びこんできた。 (レモングラス……か)  青々と茂った草が強い風に音を立てて揺れている。  音楽のように揺れる花木の音に、一花は気持ちを良くして周囲を見渡した。  庭にはコンセプトも何もないと、美代は口にしていた。  勝手に生い茂っているのを、たまに少し調整しているだけだとと、笑っていたが、しかし、確かに、のびのびと発育はしているが、決して荒れているわけではない。  よく眺めてみたら、ちゃんと庭の雰囲気を邪魔しないよう、規則性を保って整えている。  味わい深い敷石の下に、白い玉砂利を敷き詰めたゾーンに雑草はあまりないし、ソーラーライトは桜の木や、楓の木にスポットが当たるように考えて配置されている。  美代一人では荷が重いのではないかと、心配になるくらい、手入れの行き届いた庭だ。  季節の花々が、可憐に咲き誇ることのできる環境が出来上がっている。
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