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お客様に泊まって頂いている離れの窓から、よく見えるようにと、美代はそちらの方に向けて、丹精込めて育てているようだった。
今の時分は、向日葵と朝顔、アガパンサスに百日紅と……。
(そういえば、レモンの木もあったわね)
唐突に思い出したのは、昨日、統真がレモンの木について、話していたからだ。
彼の言っていたレモンの木は、通行人にも見えるように、玄関のすぐそばに植わっている。
昨日は具合が悪くて、見ることも叶わなかったが……。
(ある……みたいね)
多分、あの木だ。
緑色の葉が爽やかな音を立てて、揺れている。
本当に、レモンの木があることを、背伸びして遠目で確認してから、一花はそういえば……と、不意によみがえった思い出と向き合っていた。
(ああ、そうだわ。レモンの木といえば、私……)
子供の頃、ここを訪れた際、鑑賞用だったにも関わらず、レモンの実を食べたいと、美代にねだったことがあったのだ。
どうして、そこまでレモンに執着したのか分からないけれど、あの時の一花は必死だった。
結局、美代が折れて、捥いでもらったレモンを、意気揚々と一口齧ってみたけど、不味くて食べられたものではなかったのだ。
「馬鹿だったな、私……。でも、懐かしいな」
昔の記憶が、ほんの少しだが、戻ってきたようだ。
あの頃のことを、一花があまり覚えていないのは、おそらく直後に両親が離婚したことで、生活環境が一変し、荒れた日々を過ごしていたからだ。
当時の記憶は、美代とのことに限らず、いまだに曖昧だった。
きっと、思い出したくない出来事として、自分で封印してしまったのだろう。
(ああ、そうだった!)
一つ、美代に聞いてみたいことがあったのだ。
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