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(おばあちゃん、私が来るから、数日間、民宿業はお休みするって言っていたし、少しでも恩返しできるように頑張らなきゃいけないんだけど……)  気まずい。  このままだと、初日から迷惑を掛けてしまいそうだ。 「いっちゃん。こっち、こっち」  美代は、とても高齢者とは思えない速さで、一花を先導する。  正直、三十歳すぎて「ちゃん」付けで呼ばれると、全身くすぐったいのだが、やめて欲しいと言うのも、今更なので、一花は呼ばれるままにしておくことにした。  海岸沿いとは真逆の細い道に入ると、がらりと印象が変わる。  海から山の世界だ。  自然にできたらしい。木の蔦で覆われたトンネルを抜けて、ずんずんと美代が歩いて行く。  恐る恐る、上体を屈めて歩く姿は、まるで秘密基地に向かう子供のようだった。 (これは……失敗したな。すぐにおばあちゃん家に、着くイメージでいたんだけど……)   
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