6/11
前へ
/159ページ
次へ
 携帯からの確認は、あまりあてにはならなかったようだ。  いや、地図情報が示している通り、実際、そんなに距離はないのだろう。  一花の体力が想像以上に衰えていただけで……。 「ちなみに、おばあちゃん。あともう少し……歩く感じかな?」 「えっ、まだ結構歩くわよ。これから坂道上るから」 「坂道っ?」 「うん」  あっけらかんと返されて、一花は青くなった。  ………………有り得ない。  バス停から、徒歩五分程度の距離ではなかったのか? (まさしく、登山だわ……)  ノースリブのブラウスに、歩きやすいハーフパンツのチョイスは、間違ってなかったらしい。  避暑地だから、別荘地だからと、気張った格好をしてこなくて良かった。  美代は余裕たっぷりで、ワンピースの裾を広げて大股で歩いているけれど、この道程をスカートで登りきるのは、一花には難易度が高いはずだ。 「おばあちゃん……すごいところに住んでいるね」 「そう? そんなことはないと思うけど。いっちゃんも小さい頃、駅から一人で来たことだってあったじゃない? でも、そうよねえ、いっちゃん、ここに来るのは、久しぶりだから、忘れちゃったわよね」 「うん、さっぱり……」   (少しくらい、覚えていたら良かったのに……)  昔、一花は美代の家によく泊まりに来ていたらしいのだ。  その頃はまだ両親は離婚しておらず、今は仲違いしてしまった母と美代も、祖父が間に入って普通のお付き合いをしていた。  子供の一花は、葉山の家に行くことを楽しみにしていたそうだ。  葉山の家に遊びに来た頃は、幸せだった。  そんなふうに、感じていた記憶はあるのに、具体的なことをあまり覚えていないのが辛かった。  美代と思い出話すら出来ないのだ。  (……本当……少しくらい覚えていたら、このサバイバルな道の対処法も考えてきただろうに)  すでに、暑さから汗が滲んでいるのか、貧血が極まって冷や汗が流れているのか、分からないくらい、激しい眩暈に襲われていた。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加