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携帯からの確認は、あまりあてにはならなかったようだ。
いや、地図情報が示している通り、実際、そんなに距離はないのだろう。
一花の体力が想像以上に衰えていただけで……。
「ちなみに、おばあちゃん。あともう少し……歩く感じかな?」
「えっ、まだ結構歩くわよ。これから坂道上るから」
「坂道っ?」
「うん」
あっけらかんと返されて、一花は青くなった。
………………有り得ない。
バス停から、徒歩五分程度の距離ではなかったのか?
(まさしく、登山だわ……)
ノースリブのブラウスに、歩きやすいハーフパンツのチョイスは、間違ってなかったらしい。
避暑地だから、別荘地だからと、気張った格好をしてこなくて良かった。
美代は余裕たっぷりで、ワンピースの裾を広げて大股で歩いているけれど、この道程をスカートで登りきるのは、一花には難易度が高いはずだ。
「おばあちゃん……すごいところに住んでいるね」
「そう? そんなことはないと思うけど。いっちゃんも小さい頃、駅から一人で来たことだってあったじゃない? でも、そうよねえ、いっちゃん、ここに来るのは、久しぶりだから、忘れちゃったわよね」
「うん、さっぱり……」
(少しくらい、覚えていたら良かったのに……)
昔、一花は美代の家によく泊まりに来ていたらしいのだ。
その頃はまだ両親は離婚しておらず、今は仲違いしてしまった母と美代も、祖父が間に入って普通のお付き合いをしていた。
子供の一花は、葉山の家に行くことを楽しみにしていたそうだ。
葉山の家に遊びに来た頃は、幸せだった。
そんなふうに、感じていた記憶はあるのに、具体的なことをあまり覚えていないのが辛かった。
美代と思い出話すら出来ないのだ。
(……本当……少しくらい覚えていたら、このサバイバルな道の対処法も考えてきただろうに)
すでに、暑さから汗が滲んでいるのか、貧血が極まって冷や汗が流れているのか、分からないくらい、激しい眩暈に襲われていた。
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