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「この先だからね。いっちゃん、あと、もう一息だから」
「はあはあ……。おばちゃんより、私、若いはずなのに。ごめんね」
これでは、どっちがおばあさんなのか、分かりはしない。
一花は、肩で荒い呼吸をしながら、陽炎が立っている、遠い先を見据えた。
(何で、私、今、こんなところで、こんなことしているのかなあ……)
視界が回っている。
危険を察知して、その場に立ち止まって深呼吸をしたら、微かに漂う甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
…………それは、美代の庭に植わった花々の香りに違いない。
記憶はなくとも、それだけは覚えているようだった。
(ああ、やっぱり私、昔……ここに来たことがある)
一瞬過ったのは、昔の記憶。
満月の光に染まる花々と、白いレモンの花。
まるで、ファンタジーのような世界を垣間見ていた子供の時の自分。
――そして。
「ああ、そういえば……おばあちゃんの家に、真っ赤な花があったよね……。あれは?」
そうだ。
一番、印象的だったのが、赤い花だ。
どんな花だったのか、覚えてもいないけれど、当時の一花は、その花のことを、この世でもっとも綺麗なものだったと興奮気味に話していた。
そんな美しい花が、いまだに美代の庭に植わっているのか?
懸命に思い出そうとしていたら、今度はずきりと、こめかみに痛みが走って、怖くなった。
「いっちゃん?」
美代の声が、遠のいている。
これはまずいと、倒れる前に、その場にしゃがんみんでいたら……。
不意に、身体が軽くなった。
「えっ?」
そのまま仰向けに転がりそうになった一花の背中を、支える大きな手があった。
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