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 ぎょっとしたのは、支えてくれている男性が意外なほど若かったからだ。  栗色の髪に、琥珀色の瞳。透き通るような白い肌。  色素の薄い……中性的な青年だった。  大学生……だろうか? 「あ、貴方は一体?」 「君さ、今、後ろに倒れそうになっていたけど?」  ――君?  びっくりした。  十歳以上は年下の青年に「君」と呼ばれる日が来ようとは……。 「す、すいません! 私」  動揺しながらも、一花は彼の迫力に負けて、心から謝った。 (嫌だわ。私……。こんなご近所の若い子に、やって来た初日から醜態を晒すなんて)  明らかに不機嫌そうな大学生に、これ以上迷惑は掛けられない。  手を置いていたキャリーバックを支えに、慌てて、立ち上がろうとするが……。  ――駄目だった。  益々、暗い視界の中に、引きずりこまれそうになってしまう。 「…………まったく、仕方ないな」  心底迷惑そうに、青年はひとりごちると、そのまま放り投げられるのではないかと感じるくらい、ぶっきらぼうに一花の手から、キャリーバックを取った。 「あっ!」  そして、後ろにいる何者かに無言で引き渡してしまう。 「それ、私の全荷物で……」 「心配しなくていいよ。こんなもん、頼まれても、僕は盗らない」  いや、誤解だ。  荷物が重いことと、青年の背後にいる人物のことが一花は気になっただけで、別に窃盗を疑ったわけではないのだが……。 「痛ましいくらい、酷い顔をしているね。オバサン」
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