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【 第十一話: サリーがいない? 】
翌日から、サリーはボイストレーニングを重ね、レコーディングをこなして行った。
不思議とこういう時には、マジカには入れ替わらなかった。
サリーの声は、アンドロイドということもあり、低音や高音どちらの音域もデジタル技術で出せるため、澄んだ10代のような歌声でもあった。
そんなサリーの可愛らしい容姿と、澄んだ歌声、純粋でピュアな言動などが受けて、PVや音楽配信が始まると、すぐさまランキング上位へ急上昇し、アイドルとして素晴らしいスタートダッシュを切ることが出来た。
そして、アイドルデビューして初めての音楽番組に出演することが決まった。
その日も、彼女はサリーのまま、アイドルの可愛らしい衣装を着て、本番収録に望もうとしていた。
「さあ、サリーちゃん、もうすぐ本番だよ。頑張ってね」
「は、はい。その前に、少しお手洗いへ行ってもいいですか?」
「緊張したんだね。いいよ。まだ間に合うから行っておいで」
「はい。じゃあ、すぐに行って来ます」
サリーはそう言うと、テレビ局のトイレへ向かった。
しかし、あいにくその階のトイレは清掃中だったので、別の階のトイレへ行くためエレベーターへ向かった。
が、エレベーターも点検中だったため、サリーは仕方なく、階段を使って下の階のトイレへ行くことにした。
「早くしなきゃ、本番が始まっちゃう」
彼女は少し焦っていた。
その時、慣れない靴を履いていたサリーは、階段で足を踏み外し、運悪く階段下へ落ちてしまった。
『カツン!』
「きゃあーっ!!」
『ド、ド、ドタン!!』
「ん、んん……、あ、あれっ? ここはどこ? 私どうしてここに居るの?」
そう、階段から落ちた衝撃で、彼女はサリーからマジカに変わってしまったのだ。
状況が分かっていないマジカは、どうして自分が今ここにいるのか、どうして自分が可愛らしい衣装を着ているのか理解が出来なかった。
「どうして私こんな衣装着ているんだろう……?」
ここ何日も彼女は入れ替わることがなく、ずっとサリーだったため、マジカは今自分が置かれている状況を全く把握出来ていなかったのだ。
「私……、こんなアイドルみたいな格好してるけど……、どうして……?」
その頃、にわかに音楽番組のスタッフが焦り始めていた。
「あれ~? サリーちゃん、お手洗いから戻って来ないなぁ~。もうすぐ、スタンバイしないといけないんだけどなぁ」
「ちょっと私、トイレ見てきます」
女性スタッフはそう言って彼女を探した。
「この階のトイレは清掃中……、ということは、別の階のトイレにいるかも」
その頃、彼女、マジカは、呆然と下の階のフロアを歩いていた。丁度その時、女性スタッフが彼女を見つけた。
「あっ! いたいた。サリーさん、もうすぐ本番始まりますよー!」
「えっ? サリーさん……? 本番……?」
「すぐに来て下さい。サリーさん、スタンバイお願いします」
「えっ? あ、はい……。分かりました……」
マジカは走って収録場所へ戻って、本番の直前にスタンバイ場所にギリギリ間に合った。
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