【 第十三話: アイドルなんて向いてない 】

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【 第十三話: アイドルなんて向いてない 】

 楽屋へ戻ると、大物プロデューサーの松本もそこに待っていた。 「やぁ~、おかえり、サリーくん。初ステージ良かったよぉ~」 「そうですか? ちょっと緊張しちゃいました」 「いやぁ~、最初こそ、おやっ? って思ったけど、歌い始めたら、綺麗な澄んだ歌声だったよ~」 「ありがとうございます」 「それに、その衣装、君によく似合ってるね~、可愛らしかったよ~。うん、君は次世代アイドルとしては、完璧だ!」 「ありがとうございます」 「でも、何かちょっと、いつものサリーくんと違うような気もしちゃったんだけど」 「そ、そうですか? そ、それは、多分緊張していたからだと思います……」 「そうかなぁ~、何か知らないけど、ちょっと何かが違うように感じるんだが……」 「き、気のせいですよ……。プロデューサー……」 「んっ? プロデューサー? あれっ? いつもは君、僕のことを『松本さん』って呼んでくれていなかったかね?」 「えっ? あ、あぁ、すみません。松本……さん……」 「何か今日の君は、別人みたいだね……。まさか、双子だったりするのかな?」 「あ、それだったらいいですね……。やることも半分ずつで済みますので……。ふふふっ」 「はははは……。そんな訳無いよな。確かに双子だったら、歌を覚えるのも大変だからな。そうだ、そうだ。気のせいだな。はははは……」  マジカはロビーで待っていた俺を見つけると、涙ぐんで近寄って来た。 「ヒロシ、お待たせ……」  俺はここでやさしい言葉をかけると、マジカが号泣して俺に抱き付いて離れなくなりそうな予感があったため、敢えて短い言葉で、彼女と少し距離を置いて家路に向かった。 「帰ろうか」  帰りの電車の中で、マジカは帽子を目深(まぶか)に被り、(うつむ)き加減で、ずっと俺の服を握って離さなかった。  家へ帰り、玄関の扉を閉めた途端、マジカは大きな声で泣きながら、俺の背中越しにしがみ付いていた。 「ううぅぅ……」 「マジカ……、立派だったよ……。初ステージ」 「わ、私……、アイドルなんて向いてない……。サリーさんのようには、私なれない……」 「そんなことないよ。マジカは、ちゃんと出来ていたよ。アイドルらしく、立派にお仕事したと思う……」 「ううん……、サリーさんだったら、もっと、ちゃんと出来ていたと思う……」 「マジカは、マジカらしくすればいいよ。大丈夫……」 「サリーさんは、アイドルになりたいと思ってるのね……?」 「うん。彼女はアイドルになるって言ってる……」 「そうなんだ……。じゃあ、マジカ頑張らないといけないんだね……?」 「マジカ……」  俺はそれ以上、マジカを慰めてあげる言葉が見つからなかった。  マジカの意思と、サリーの意思が初めて重ならないことに、俺はどうしていいのか分からず戸惑っていた。  その夜、アイドルとして初めてテレビで放送される彼女の姿を見た。  テレビの中の彼女は、豪華なステージ上で、キラキラ輝く可愛らしいアイドルそのものだった。  それはネットニュースで話題になるほど反響が凄く、彼女のアイドルとしての容姿や仕草、歌声、受け答えなど彼女を()(たた)えるものばかりだった。
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