28人が本棚に入れています
本棚に追加
【 第十五話: 浮気? 】
その日の深夜、彼女は久しぶりに家に帰ってきた。
彼女は俺を起こさないように、静かにそっと帰ってきたようだった。
俺は、彼女と松本のことが気になり、寝ることが出来ず、ふとんの中でずっと起きていた。
俺は、ふとんから出ると、彼女にこう言った。
「随分と遅かったじゃないか」
「あ、ヒロシ、起きちゃった? ごめん……」
「松本の所にいたのか?」
「う、うん。明日のテレビ出演のことで、相談してたの」
「そ、そうか。随分夜遅くまで相談してたんだな」
「えっ? あ、あの人たち昼も夜もないから……」
「まさか、松本のことが好きになったんじゃ……?」
「えっ? そ、そんなことないよ。ヒロシのことが好きよ。どうして?」
「最近、俺との時間がほとんど無いよね……? 松本といる時間の方が圧倒的に多いし……」
「そ、それは、アイドルとしての仕事が忙しくって、それで……」
「それで……、松本のことが好きになったっていうことか?」
「ち、違う。それは誤解……。私、今もヒロシのことが好きだよ」
「じゃあ、どうして、この数ヶ月間、俺との時間はほとんど無くて、松本との時間がこんなに多いんだよ! しかも、帰って来ない日や、帰って来てもこんな深夜だろ! どう見てもおかしいだろ! そんなの!」
「ご、誤解だってば、ヒロシ!」
「どうせ、松本と浮気でもしてたんだろ!!」
「ヒ、ヒドイ……、ヒド過ぎる……。私、浮気なんてしてない……。今でもヒロシのこと大好きなのに……。どうしてそんなこと言うの……。うぅぅ……」
俺は思わず『浮気』の疑いを彼女にぶつけてしまった。
「私……、いつもヒロシがお仕事行って、お給料をもらって来てくれているけど、私は何もしていないから、私もヒロシのために頑張ってお仕事して、お給料をもらって、今月のクリスマスにヒロシに何かプレゼントをしようかなって思っていたのに……、ふうぅぅ……」
「プ、プレゼント?」
「う、うん。何か、ヒロシが喜んでくれそうなプレゼントを自分が働いたお金で買ってあげたかったの……」
「そ、そうだったんだ……」
「それなのに、ヒロシは、私が浮気しているって、そんなのヒドイ……」
「ご、ごめん……」
「私は、今でもヒロシのことが大好きだし、松本さんとは何もないよ……」
「ごめん……。疑ったりして……。俺が悪かった……」
「う、うん……、(しくしくしく……)」
俺はその時、彼女が以前言った言葉を思い出していた。
「も、もしかして、あの時、俺のためにアイドルになりたいって言った理由は、クリスマスプレゼントを買うため?」
「うん……、そう……」
「そうだったのか……。ヒドイこと言ってごめん……、サリー」
俺がサリーの体を抱き寄せると、サリーは大きな声で泣き出した。
この数ヶ月間、我慢してきたことが一気に溢れ出したんだと思う。
俺は本当に、彼女をアイドルにしたかったんだろうか、そう自分に問いかけていた。
サリーやマジカに、今必要なものは何かを俺は考えていた。
彼女たちがアイドルになっても、俺たち家族にとって、それは本当に幸せなことなんだろうかということを……。
ふと、以前、マジカが言っていた言葉を思い出した。
「(ヒロシのお嫁さんになるのが、私の夢……)」
俺は、サリーにも気持ちを確認する必要があると思った。
「ねぇ、サリー……、一つ聞いてもいい?」
「んっ……? いいよ……」
「サリーは、俺のこと好き?」
「うん。大好き」
「じゃあ、俺のお嫁さんになりたい?」
「えっ? ヒロシのお嫁さんに?」
「うん。俺のお嫁さんに」
「うん。ヒロシがサリーのことまだ愛してくれているなら、ヒロシのお嫁さんになりたい」
「そうか。サリーのこと愛してるから、俺のお嫁さんになってくれる?」
「うん。ヒロシのお嫁さんになる……。う、うぅ……、うわぁーん!」
サリーはそう言うと、一段と大きな声で泣きながら俺の首に腕を回して強く抱き付いた。
「ありがとう。サリー……」
俺もサリーの体をギュッと抱きしめ、いつの間にか、目からこぼれ落ちた涙が頬を伝って流れていた。
最初のコメントを投稿しよう!