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【 第十六話: 電撃引退! 】
俺は翌朝、マジカになっていた彼女にも同様の確認をした。
マジカもサリーと同様、アイドルよりも俺を選んでくれた。
そこで俺は、プロデューサーの松本に、彼女がアイドルとしての芸能活動を、クリスマスイブの前日までとするように伝えた。
松本は当然、怒っていたが、俺は彼の言うことには、全く耳を貸さなかった。
彼女が芸能界を引退するニュースは、瞬く間に全国へと広がり、ネット上でも色々な憶測が流されていた。
しかし、俺や彼女たちにとって、一番大事なことは何かという選択を俺たちはしたまでだ。
このまますれ違いの生活をしていたら、どうなっていたかは俺には想像が付かない。
只一つ言えることは、俺も彼女たちも好きな気持ちに変わりが無いって言うことだけだ。
彼女のアイドル最後の日、テレビやラジオ、新聞、雑誌、ネットなどに彼女の話題が沢山取り上げられていた。
非常に短いアイドル生活で、色々なところから惜しむ声があったが、彼女たちもアイドルの引退に対して、何も後悔は無いみたいだった。むしろ、清々しいまでの引退劇だった。
クリスマスイブの前日を、アイドル最後の日に選んだのは、彼女なりの俺に対する愛情表現だったのだと思う。
俺とクリスマスイブを過ごしたいという思いで。
俺はその夜、彼女の引退報道をテレビで見ながら、彼女にこう聞いた。
「サリー、これで良かった?」
「うん。これで良かった。私、やっぱりヒロシと一緒がいいもん」
「そうか……。ありがとう」
「もしね、あのまま私がアイドルを続けていたら、ひょっとしたら、お互いの気持ちが離れてたかもしれない」
「うん……」
「だから、私はこれで良かったの。それに、何故だか、松本さんに私が二人いるみたいって、よく言われてたし……」
「二人いるみたいって?」
「うん。どうしてだろう……。私も何かそんな気がしていたりして……。ほら、私って、ポンコツアンドロイドだから……」
「サリーは、ポンコツじゃないよ。むしろ、その反対。優秀なアンドロイドだから、そう思えるんじゃないかな」
「うふっ、ありがとう。ヒロシ」
テレビにキラキラ輝いて歌っている彼女は、今、俺の隣にいる彼女ではないように感じた。
そんな不思議な感覚を、この日俺は味わっていた。
「あ~、明日が楽しみだなぁ~。初めてのヒロシとのクリスマスイブだもん」
そう、サリーにとっては、俺とのクリスマスイブは、初めての体験なのだ。
「早く明日が来ないかなぁ~」
「そうだね。あはは……」
「うふふっ……」
今日までの忙しかったアイドル生活がまるでウソだったかのように、この日の夜はいつもよりやけに静まりかえって、久しぶりに穏やかなやさしい空気に包まれていた。
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