【 第十八話: 聖なる夜 】

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【 第十八話: 聖なる夜 】

「サリーね。今日、ヒロシのためにケーキを作ってあげる」 「ケーキを?」 「うん、クリスマスケーキを作ってあげる」 「サリーはケーキ作れるんだね」 「もう、ヒロシったら、私だってケーキくらい作れるんだから~」 「ごめんごめん。100種類の料理のレパートリーの中に、ケーキも入ってるんだね」 「そうだけど、今日はヒロシとの初めてのクリスマスイブだから、特別なスペシャルケーキを作っちゃうんだから」 「そうか。ありがとう、サリー。サリーはやさしいね」 「だって……、ヒロシのことが好きだから……」  そう言うと、サリーはほっぺをピンク色に染めた。  俺は、そんなサリーが愛おしくて、たまらず、サリーの体を強く抱き寄せた。  この時、本当に、サリーが俺の元に帰って来たんだと実感できた。  ――その夜、俺たちはサリーの作ってくれたクリスマスケーキで、二人きりのクリスマスイブを過ごしていた。  もちろん、同じ過ちを犯さないように、『クラッカー』は封印したままにして。 「ねぇ、クリスマスケーキのロウソクに火を点けるね」 「うん」  俺が、クリスマスケースのロウソクに全て火を点けると、サリーはゆっくりと部屋の明かりを消した。  周りは、そのロウソクの火の明かりだけとなり、一段とクリスマスイブの雰囲気を漂わせていた。  俺が、サリーの顔の方を見ると、サリーも俺の顔を恥ずかしそうに見つめていた。  すると、彼女は、俺にこう言った。 「ヒロシ、今日はありがとう。今まで、なかなか時間が取れなくてごめんね」 「ううん、俺の方こそ、ごめん。ちょっとヤキモチ焼いて、変なこと言ってしまって。でも、仲直りできて本当に良かった」 「うん、私も良かった。大好きなヒロシと心が離れて行ってしまうのが、とっても恐かった」 「ごめんよ、サリー。もう二度とそんな思いはさせないから」 「ありがとう、ヒロシ……」  すると、彼女がゴソゴソと何かを取り出した。 「これ、ヒロシにクリスマスプレゼント」 「えっ? 俺に?」 「うん、そのために、アイドルのお仕事をしたんだもん。はい、受け取ってくれる?」 「もちろんだよ、サリー。ありがとう……。ごめん、俺、サリーへのクリスマスプレゼント用意してなかった……」 「ううん、大丈夫。今日は、一日私と一緒に居てくれるよね?」 「うん、もちろん」 「サリーは、それだけで幸せ。それが、私の一番望んでいるクリスマスプレゼント」 「サリー、ありがとう……」  俺は思わず、零れ落ちた一粒の涙を手で拭った。  ロウソクの明かり越しに、サリーも涙を流しているようだった。  そして、彼女は涙を拭うと、ニコッと笑って、俺にこう言った。 「ヒロシ、プレゼント開けてみて」 「うん」 『ガサガサガサ……』 「あっ、これ? すごい高級そうな腕時計」 「うん、ヒロシが会社に遅れないように、それを付けて行ってね」 「うん、ありがとう。遅れないようにするね。うれしいよ、サリー。ありがとう」 「うふふっ」 「じゃあ、ロウソクの火そろそろ消そうか」 「うん。ヒロシと一緒にフ~って消したい」 「いいよ。じゃあ、一緒にね。行くよ」 『フーッ!』  俺たちは向かい合いながら、笑顔でクリスマスケースのロウソクの火を吹き消した。  すると、辺りは急に真っ暗になった。  俺は、サリーが自動で明かりを点けてくれると思い、そのまま待っていると、あの時のようにまたほっぺに何かがやさしく触れた。  すると、徐々に明るくなっていき、またサリーが椅子の上で、下を向いて恥ずかしそうにモゾモゾしていた。 「サリー? 今、ほっぺに触れた?」 「知らないよ~だ……」  俺は、サリーの赤くなって、両手で顔を隠す姿で、全てを察した。  そして、笑顔でこうサリーに言った。 「サリー、ありがとう。大好きだよ」 「う、うん……。私も、ヒロシのこと大好き……」  彼女の顔は、益々赤くなって、おそらく体温が上昇しているんじゃないかと思うほどだった。  俺たちはその後、クリスマスイブの夜を楽しく二人で過ごした。  ――夜が更けてきた頃、二人でふとんに一緒に入り、二人であの歌を歌った。 「サリー、今日はありがとう」 「うん。私の方こそ、ありがとう。こんな特別な日にヒロシと一緒に居れるなんてとても幸せ」 「あははは。ねぇ、サリーは『きよしこの夜』っていう歌知ってる?」 「うん。私の曲のレパートリーの中に入ってるから、知ってる」 「そうか。一緒に歌おうか」 「うん」 「(き~よし~、こ~の夜~、星は~ひ~かり~、す~くい~の、み~こは~、み~はは~の、む~ねに~、ね~むり~、たもう~、ゆめ~やすく~……)」  そう歌い終えると、彼女は俺の胸で泣いていた。  俺は、小さな声で「おかえり」と言って、震えて泣いている彼女を強く抱きしめていた。  そのクリスマスイブの聖なる夜も、昨日のように、外はやけに静かだった。  ただ、窓からは、カーテンの隙間から、月の光だけが、俺たちの寝ているベッドまで、明るく二人を歓迎するかのように、やさしく灯しているようだった。 END
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