28人が本棚に入れています
本棚に追加
【 第十八話: 聖なる夜 】
「サリーね。今日、ヒロシのためにケーキを作ってあげる」
「ケーキを?」
「うん、クリスマスケーキを作ってあげる」
「サリーはケーキ作れるんだね」
「もう、ヒロシったら、私だってケーキくらい作れるんだから~」
「ごめんごめん。100種類の料理のレパートリーの中に、ケーキも入ってるんだね」
「そうだけど、今日はヒロシとの初めてのクリスマスイブだから、特別なスペシャルケーキを作っちゃうんだから」
「そうか。ありがとう、サリー。サリーはやさしいね」
「だって……、ヒロシのことが好きだから……」
そう言うと、サリーはほっぺをピンク色に染めた。
俺は、そんなサリーが愛おしくて、たまらず、サリーの体を強く抱き寄せた。
この時、本当に、サリーが俺の元に帰って来たんだと実感できた。
――その夜、俺たちはサリーの作ってくれたクリスマスケーキで、二人きりのクリスマスイブを過ごしていた。
もちろん、同じ過ちを犯さないように、『クラッカー』は封印したままにして。
「ねぇ、クリスマスケーキのロウソクに火を点けるね」
「うん」
俺が、クリスマスケースのロウソクに全て火を点けると、サリーはゆっくりと部屋の明かりを消した。
周りは、そのロウソクの火の明かりだけとなり、一段とクリスマスイブの雰囲気を漂わせていた。
俺が、サリーの顔の方を見ると、サリーも俺の顔を恥ずかしそうに見つめていた。
すると、彼女は、俺にこう言った。
「ヒロシ、今日はありがとう。今まで、なかなか時間が取れなくてごめんね」
「ううん、俺の方こそ、ごめん。ちょっとヤキモチ焼いて、変なこと言ってしまって。でも、仲直りできて本当に良かった」
「うん、私も良かった。大好きなヒロシと心が離れて行ってしまうのが、とっても恐かった」
「ごめんよ、サリー。もう二度とそんな思いはさせないから」
「ありがとう、ヒロシ……」
すると、彼女がゴソゴソと何かを取り出した。
「これ、ヒロシにクリスマスプレゼント」
「えっ? 俺に?」
「うん、そのために、アイドルのお仕事をしたんだもん。はい、受け取ってくれる?」
「もちろんだよ、サリー。ありがとう……。ごめん、俺、サリーへのクリスマスプレゼント用意してなかった……」
「ううん、大丈夫。今日は、一日私と一緒に居てくれるよね?」
「うん、もちろん」
「サリーは、それだけで幸せ。それが、私の一番望んでいるクリスマスプレゼント」
「サリー、ありがとう……」
俺は思わず、零れ落ちた一粒の涙を手で拭った。
ロウソクの明かり越しに、サリーも涙を流しているようだった。
そして、彼女は涙を拭うと、ニコッと笑って、俺にこう言った。
「ヒロシ、プレゼント開けてみて」
「うん」
『ガサガサガサ……』
「あっ、これ? すごい高級そうな腕時計」
「うん、ヒロシが会社に遅れないように、それを付けて行ってね」
「うん、ありがとう。遅れないようにするね。うれしいよ、サリー。ありがとう」
「うふふっ」
「じゃあ、ロウソクの火そろそろ消そうか」
「うん。ヒロシと一緒にフ~って消したい」
「いいよ。じゃあ、一緒にね。行くよ」
『フーッ!』
俺たちは向かい合いながら、笑顔でクリスマスケースのロウソクの火を吹き消した。
すると、辺りは急に真っ暗になった。
俺は、サリーが自動で明かりを点けてくれると思い、そのまま待っていると、あの時のようにまたほっぺに何かがやさしく触れた。
すると、徐々に明るくなっていき、またサリーが椅子の上で、下を向いて恥ずかしそうにモゾモゾしていた。
「サリー? 今、ほっぺに触れた?」
「知らないよ~だ……」
俺は、サリーの赤くなって、両手で顔を隠す姿で、全てを察した。
そして、笑顔でこうサリーに言った。
「サリー、ありがとう。大好きだよ」
「う、うん……。私も、ヒロシのこと大好き……」
彼女の顔は、益々赤くなって、おそらく体温が上昇しているんじゃないかと思うほどだった。
俺たちはその後、クリスマスイブの夜を楽しく二人で過ごした。
――夜が更けてきた頃、二人でふとんに一緒に入り、二人であの歌を歌った。
「サリー、今日はありがとう」
「うん。私の方こそ、ありがとう。こんな特別な日にヒロシと一緒に居れるなんてとても幸せ」
「あははは。ねぇ、サリーは『きよしこの夜』っていう歌知ってる?」
「うん。私の曲のレパートリーの中に入ってるから、知ってる」
「そうか。一緒に歌おうか」
「うん」
「(き~よし~、こ~の夜~、星は~ひ~かり~、す~くい~の、み~こは~、み~はは~の、む~ねに~、ね~むり~、たもう~、ゆめ~やすく~……)」
そう歌い終えると、彼女は俺の胸で泣いていた。
俺は、小さな声で「おかえり」と言って、震えて泣いている彼女を強く抱きしめていた。
そのクリスマスイブの聖なる夜も、昨日のように、外はやけに静かだった。
ただ、窓からは、カーテンの隙間から、月の光だけが、俺たちの寝ているベッドまで、明るく二人を歓迎するかのように、やさしく灯しているようだった。
END
最初のコメントを投稿しよう!