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【 第二話: 線香花火 】
俺は、授賞式の前日、大賞のお祝いに、マジカと自宅のアパートの庭で小さな花火大会を開くことにした。
「よし。まずは手持ち花火に火を点けるよ」
『プシャーッ!』
「うわぁー、きれい!」
「ほら、マジカのにもこのまま火を点けてあげる」
「マジカ、ちょっとこわい……」
「大丈夫。ほら、点けるよ」
『プシャシャー!』
「きゃあ、点いたぁ!」
「どう? こわくないでしょ?」
「うん。こわくない。とってもきれい」
マジカは生まれて初めての花火に、ドキドキとワクワクが入り混じったような表情で無邪気に遊んでいた。
「よし、次は小さいけど、この打ち上げ花火に火を点けるよ~」
「きゃあ、ヒロシ大丈夫かなぁ? マジカこわいから、離れてる」
「うん。じゃあ、行くよ。それっ!」
『ジジジジ……、ヒュ~、パーン!』
「うわぁ~、きれい~」
「たまや~」
『ヒュ~、パーン!』
「すご~い、赤や緑や黄色まで……。まるで夜空に咲いたお花みたい」
「うん。きれいだね~」
『ヒュ~、パーン! ジジジ……』
「あ~、これが最後かぁ~」
「でも、きれいだったぁ~、打ち上げ花火」
「ちょっと小さかったけどね……、ははは……」
でも、マジカにとっては初めての花火だったので、俺が小さい時にドキドキしながら花火をした頃と同じように純粋な気持ちだったのかもしれない。
俺は最後に残った線香花火をマジカと一緒に楽しんだ。
「最後に線香花火する?」
「うん。する。テレビで見たことあるよ。恋人同士が一緒にする花火でしょ?」
マジカは、テレビで見た恋人同士がやっていることはやけに記憶に残るようで、それが彼女にとって憧れだったのかもしれない。
「じゃあ、点けるよ」
「うん」
『ジジジジ……、シャ、シャ、シャシャ、シャシャシャ……』
「うわぁ~、線香花火もきれい~」
「うん、きれいだね~」
「何か小さなお花が沢山咲いてくるみたい」
「うん、最初は小さいけど、段々と大きくなっていくよ」
「うわぁ~、ほんとだぁ~、きれ~い」
すると、マジカの線香花火が終わり、地面にポトリと落ちた。
「あっ、落ちちゃった……、ヒロシ」
「うん。まだあるから、次のを点けてあげる」
「うん。ありがとう」
俺は、浴衣姿でちょこんと座りながら線香花火をするマジカを横目で見ていた。
マジカは幼い子供のように、無邪気にはしゃぎ、よく笑い、よく泣く。
俺は永遠にこの時間が止まっていたらいいのに、とさえ思っていた。
『ポトッ……』
「あぁ、最後の線香花火も落ちちゃった……」
「うん。終わっちゃったね……」
「何か、終わっちゃうと、さみしいな……」
そう言うとマジカは落ちた線香花火をじっと見つめているようだった。
花火も終わり辺りは暗くて、俺にはよく見えなかったが、多分マジカは少し涙ぐんでいたんだと思う。
「ヒロシ、今日はありがとう……。小さな花火大会開いてくれて……、マジカ、うれしかった……」
「マジカ……。今度は大きな花火大会に二人で行こうね」
「うん、絶対だよ。ヒロシ」
俺たちはそんな風に、来年の花火大会の約束をした。
その日の夜空は、東京に今まで住んできて、一度も見たことがないほど綺麗に星が輝いて見えた。
そんなマジカとの出来事と、あの日の星空の景色だけは、よく覚えている。
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