リトルリーグガール

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リトルリーグガール

“目白勝利、凱旋勝利!”  そんな大きな見出しのスポーツ新聞が出回る頃、わたしは荷造りの真っ最中だった。  目白勝利――わたしのパパは三十五歳。怪我もなく、まだまだ現役でプレーできるのだがメジャーリーグで契約してくれるチームはなくなってしまった。それでも、日本の複数のチームから声が掛ってわたしたち家族の帰国が決まった。 「もう、あなたったら! どうして北海道の球団を選んだのよ」 「……一番に声を掛けてくれたからな」 「そんな適当な! 子どもたちの教育のことを考えたら東京の方がいいのはわかったでしょう。どうして何の相談もなく決めるのよ」 「野球のことはわからないから好きにしていいと言っていただろう」  最近、パパとママは喧嘩ばかりしている。その原因はパパの移籍先が北海道ベアーズだということ。ベアーズはその名の通り北海道に本拠地ベアスタ北海道を構えているのだが、ママはその球団がお気に召さないらしい。  わたしはメジャーの大舞台でパパの活躍を見られなくなるのは残念だと思うが、日本のプロ野球で活躍するパパを見るのも少し楽しみだ。 「そうだけど、住む場所は家族の問題よ」 「なら、そっちも好きにしたらいいだろう」 「もう、そうやって! いいわ、わかった。私達は東京で暮らすから。どうせ、あなたもすぐに引退して引っ越して来るでしょう」  とうとうママがキレた。  ママが怒れば、大抵パパが折れる。だけど、今回は契約を覆すことはできない。どうしてパパはママに相談しなかったんだろう。ママはすぐ引退なんて言ってるけど、パパはまだまだやれると思うからそんな長い間離れて暮らすのは寂しい。 「やだ! 東京と北海道って遠いでしょ。パパの野球が見られなくなっちゃう」  わたしはこのままではいけないと二人の間に入る。そうしたら、パパはハッとした顔をしたからなんとかなるんじゃないかと期待した。 「……そうだな、お前たちは東京でいいんじゃないか。エミリもまだ仕事の話がくるんだろう。ずっと断っていたみたいだけど、そろそろ復帰してもいい頃合いだ」 「そう、あなたはいいと思うの?」 「あぁ、綺麗だからな」  パパの言葉にママは驚いたような顔から頬を赤く染める。いつもママが一方的に話していることが多いが、寡黙なパパの一言がすべてを動かしてしまう。 「そんな、もう年だし。みんな若いし……でも、年の割にはイケると思うのよね。あなたがそう言うなら仕事復帰しようかしら。引退したら、夫婦でタレントっていうのもいいわよね」 「えっ、やだ! パパの試合は?」 「そうと決まれば、事務所に連絡しなくちゃ。マンションの手配今からでもできるかしら」  張り切ったママにわたしの抗議は届かない。 「ママきれい、パパ、がんばれ」  妹のアリサも仲間に引き入れることはできず、わたし目白凜(めじろりん)、八歳、元メジャーリーガーの娘はこうして東京に住むことになってしまった。
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