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マンションから走って十五分くらいの場所にある河川敷では、白に縦縞のユニホームを着た野球チームが練習している。連携を見てもまぁ悪くはない。
「ねぇ、わたしこのチームに入ってあげてもいいけど」
ちょうど休憩に入ったタイミングで、わたしは集団に近付いて宣言してあげた。それなのに、みんなポカンと口を開けたまま反応しないなんて失礼だ。
「ちょっと聞いてるの? わたしが入るんだよ。ここを選んであげたの」
アメリカでわたしはたくさんの野球チームに誘われた。どのチームの子もわたしを褒めたし、実際わたしがいるチームが一番強かった。だから、家から近いという条件だけで選ばれたこのチームはとっても強運だ。
「はぁ? お前、何言ってるんだ?」
ざわめいたり、首を傾げたりする子はいるけれどわたしの入団に関する返事は一向にこない。そんな中で、ようやくニコニコした男の子が声を掛けてきた。
「うちのチームに入りたいの? 君の名前は?」
「目白凛よ。そして入りたいんじゃなくて、入ってあげるの!」
「ふーん……それで、ポジションは?」
「ピッチャー!」
軽く流された気がするけれど、ポジションを聞かれてすかさず答える。ピッチャーであることは、わたしにとって譲れないことだ。
「おい、健。相手にしなくていいぞ」
「ここは都内でもちょっと名の通ったリトルのチームなんだ。子ども、それに女……には見えないけど女は無理だ」
これまで黙っていた上級生らしき数人が前に出てきて、わたしのことを鼻で笑いながら追い払おうとする。だが、わたしはこんな奴らには負ける気がしない。
「ここにいる誰もわたしには勝てないよ」
「なんだと!」
わたしが負けずに一歩前に出て胸を張れば、上級生たちと背丈はあまり変わらない。むしろ取っ組み合えば体格的にわたしに分がありそうなため、凄まれてもちっとも怖くない。
「やってみる?」
「やってやろうじゃないか」
わたしの言葉ははったりなんかじゃないため、真っ向勝負は望むところだ。
「君、ピッチャーなんだよね。じゃあ、俺が受けようか」
「いや、健が打て」
怖じ気付いたのか、それとも舐めているのか、対戦相手は勝負を受けた上級生ではなく笑顔を絶やさない少年だという。でも、誰が相手でもわたしには関係ない。
「こんなヒョロヒョロ君にわたしの球が打てるのかな」
健と呼ばれている子は、わたしより小さくてバットを構える様も頼りない。それでも逃げ出すことなく、わたしとウォームアップのキャッチボールをしてくれるのだから良い人ではあるのだろう。確かキャッチャーだって言ってたから、入団したらわたしの球を受けさせてあげてもいいと思う。
だが、いくら良い人でも勝負は別だ。
わたしは出来上がった肩に満足して、マウンドに向かう。
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