リトルリーグガール

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「勝ちか?」 「いや、でも詰まってたよな。セカンドフライだろ」 「でも、打たれないって宣言したけど打たれたぞ」  周りは勝負の結果をあれこれ考えているみたいだけど、わたしにしてみれば負けでしかない。  バットに当てられた、前に飛ばされた。アメリカではもちろん打たれたことはある。でも、それはわたしよりも大きくてパワーもある子だった。それに比べて今回の相手はヒョロヒョロでわたしより小さい。どうして、どうしてだろう。こんなんでは、パパに認めてもらえない。 「キャッチャーが悪かっただろう」  放心していたわたしは、すぐ近くまで人が来ていることに気付かなくて囁き声に体をビクリと震わせてしまう。 「それでも、わたしは前に飛ばされるつもりなんてなかった。こんなんじゃダメ……目白の娘としてふさわしくない」  もっと練習しなくてはとわたしは走り出そうとするが、腰あたりのユニホームが強く引っ張られる。 「この勝負、引き分けだね。決着はまた今度にして、今度は一緒にどう勝つか考えなきゃな。目白勝利の娘のチームが弱いといけないよな」  馴れ馴れしく肩に手を回されて、わたしは振り払おうとする。 「えっ、目白ってあの目白勝利かよ! お前の父さんって本当か?」 「だからあの縦スラか。さすがだな。うわっ、俺、めっちゃファン!」  急にざわつき出したミーハーな周囲に、わたしは肩の手を外すのを忘れて耳を澄ませる。二世と呼ばれることを嫌がる人もいるみたいだけど、わたしはパパの娘ということが何よりの自慢だ。 「じゃあ、凛は今からチームメイトだな。一緒に頑張ろう」  勝手にまとめられた上に呼び捨てにされたが、のせられるようにみんなが「おー」と盛り上がっている。わたしとしては勝負に負けたも同然だから入団なんてできないと思っていたから、この状況には複雑な気持ちだ。 「俺は立花健(たちばなたける)。キャッチャーだから、凜とはバッテリーを組むことになるな。俺なら、あのスライダーをもっと気持ち良く投げさせられるから」  アメリカではみんなからリン、リンと呼ばれていて楽しかった。そんな記憶が健の言葉から思い出されて、わたしは思わず頷いてしまう。  こうしてわたしはリトルリーグチーム、ファルコンズの一員となった。
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