リトルリーグガール

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 わたしの入団は、思ったよりもしっかりとママが手続きしてくれた。ママは我が儘で自分で何もできないようなキャラに見られがちだけど、意外としっかり者だし周りにもそう見られたいと思っている。だけど、他の保護者と同じように活動できるかと言えばそれはノー。そこで、パパの登場だ。  チームが移動するバス、箱いっぱいのボール、バットにグローブがパパの名前で寄付された。  これによってチームが遠征に行く時、保護者が車を出し合う必要はなくなった。そのためママはわたしの野球の試合の足にならずに済んだし、見えっぱりの精神も満たされる。 「でもさ、凜は母さんに試合見に来て欲しくないのか?」 「え~いいよ、いいよ。ママも色々あるからね」  元々、ママは野球に興味がないことはわかっている。それに加えて、離れて暮らしているパパを思い出すから辛いのだろう。すすきのってところに行くパパと最近よく電話で喧嘩をしているのを知っている。  だから一緒に暮らせばよかったのにと思うけど、口にはしない。今更ママが北海道に行くと言うとは思えないし、わたしはファルコンズを辞めたくないのでこのままがいいのだ。だから、当たらず触らず、それが一番だ。 「まぁ、まだそんなに出番はないからな」 「そんなこと言って、健はレギュラーじゃん」  ママが作ってくれたことになっているデリバリーの手作り弁当を食べながらわたしは口を尖らせる。これはおいしいからいいんだけど、量が少ないという点では気に入っていない。わたしは弁当を食べる傍ら、コンビニのチキンを二つパンに挟んで食べるのも忘れない。  健との勝負から時は流れて、わたしはベンチ入り控え投手で健はキャッチャーでレギュラーを獲得している。 わたしは四年生、健は五年生だからたまに六年生のお兄さんたちに意地悪をされたりもする。投手は特に出番争いが激しいため嫌がらせも多いけど、わたしは黙ってやられるだけじゃない。  例えばこの前狭いベンチでわたしの大きめなお尻が邪魔だと呟かれたときは、無邪気な顔をしてそいつの膝に乗ってやった。ぐきって音がしたけど気にしない。さすがに加減はしたし、怪我した訳でもないから大丈夫。大体、女の子に膝に乗られたくらいで大袈裟なんだ。わたしは四十九キロで五十キロないんだから!  あと、足を引っ掛けて転ばせようともされたから彼らより高い身長を生かし、躓いたふりをして顎を思いっきり頭にぶつけてやった。あの時は健が「顎が割れたらどうするんだ」ってわたしを叱った。その言い方がおかしくて六年生より下の学年のチームメイトと笑い合って仲間に入ることができるようになった。
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