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こんな風に思いを馳せていたら「いただき!」とお弁当のだし巻き玉子が奪われた。
「ちょっと、わたしのだし巻き」
「相変わらず凜の弁当はうまいよな~。かーさん美人で料理上手とかやばいよ。凜も見習えばいいのに」
おかずを奪ったのはショートの海人。健と同学年でセカンドを守る陸人の弟でわたしと同級生。お調子者ではあるが六年生のレギュラーよりも上手なのは間違いなくて、年功序列でベンチ待機させられている。同じような境遇のわたしたちは試合に出たいとベンチで愚痴り合い、比較的早く仲良くなれたため今では健についで話す機会が多い。
「ママには妹が似たからいいの。可愛いんだよ。知ってるよね、目白アリサ」
「えっ、あのツインテールでCMに出て歌ってる子って凜の妹かよ! 妹にかーさんの良いとこ全部持っていかれたな」
「そうだね。でも、それでよかったよ」
残りの玉子を盗られないように口の中に慌ててしまい込んでから、わたしは胸を張る。ご飯を食べたばかりだから胸よりお腹がでているのはご愛敬だ。
「凜はお父さん似だもんな」
「そうだよな~。目白勝利仕込みのスライダー、すげ~よな」
健が横から口を挟んでくれば、次々にわたしがパパに似ているという賛辞が集まる。ママに似ているアリサは可愛いけど、わたしはパパに似ている方がいい。
気分上々で弁当箱をしまい、健とキャッチボールでもしようかなと軽くストレッチをする。そうすれば、すぐに健は察してくれて立ち上がってくれる。
「すごい、すごいって言っても点数とられちゃ負けるよな」
「そうだよな、俺たちの最後の試合だったのに」
これみよがしに聞こえてきた声にわたしは心の中で大きくため息をつく。彼らが言っているのは全国大会の地区予選のことだ。
確かにわたしたちはその試合に負けたし、最後のマウンドに立っていたのはわたしだ。負けるのは嫌いだし、打たれるのもごめんだ。だけど、今回のはしょうがないと思ってしまう。
スコアは十対二、ちなみにわたしの失点は一点なんだけど五回終了時に八点差でコールドゲームというルールから戦犯投手となってしまった。
野球はチームプレイだ。投手が打たれても、野手がエラーしても、四番がチャンスで打てなくても誰か一人の責任ではなくみんなの責任だ。でもそれは信頼関係があってからこそだと思う。
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