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アメリカンドリーム
「MEJIRO !」
「MEJIRO !」
スタジアムを見渡せば三百六十度、すべての観客たちが総立ちで拍手する。
九回表ツーアウト二三塁、スコアは1―0、抑えれば勝利だが一打逆転の大ピンチ。右手でホットドックを握り潰し、ケチャップとマスタードで手を汚しながらも息を止めてピッチャーを見守る。
セットポジションでユニホームのストライプが歪むものの、背番号11はピンと皺なくその存在を主張している。
ピッチャーは左足を上げて、そこから大きく踏み出して投げる。
ランナーへの牽制ではないと気付いた時には、力強く振り下ろされた手から白球が飛び出していた。それはまるでライフル銃のような勢いと回転で相手バッターに向かっていく。
「打たないで!」
バッターが思い切りのよいスイングをしていて、ボールはスタンドまで飛んでいくのではないかと想像したのだろうママが目を瞑る。
でも結果は違った。ボールはストレートに似た軌道から放物線に近い軌道で勢いを変えずに落ちていき、キャッチャーのミットにおさまった。
「やった! 三振、ゲームセットだよ」
飛び上がって喜ぶと、一緒に大きな紙カップが宙を舞いコーラの雨が降り注ぐ。
「ママ、打つ人がクルクル回って倒れて、パパが喜んでるよ」
「本当ね、嬉しいのね」
「今のは空振り三振だよ!」
大きな目を目一杯見開いた可愛い妹と、野球に疎いママに説明する。
「MEJIRO victory!」
「MEJIRO victory!」
スタジアム中が沸き立って、勝利投手となった目白勝利(めじろかつとし)の名前にちなんだニックネームでの応援が響く。その声はしばらく止むことはなさそうだ。
「HEY Boy. That uniform sense is good(目白のユニホームなんてセンスがいいね)」
後ろの席の陽気なおじさんが背番号11のレプリカユニホームを褒めてくれる。それが誇らしいのと、自慢するのは少し恥ずかしくてわたしはユニホームとお揃いのキャップをキュッと引き下げてから内緒話をするように囁く。
「He’s my father」
もちろん、おじさんは目を見開いて驚いている。それは、今活躍しているピッチャーの家族と話しているってことだけじゃなくて甲高い声で返事をしたわたしが女の子だったということもあるだろう。でもそんなことは気にしない。わたしはお父さん似なのだ。
綺麗なママと可愛い妹が隣にいて、大きなホットドックとコーラをお供にパパを応援する。
ここはどこよりも楽しくて、最高に興奮する場所。
スタジアムにはすべてがあった。
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