魔女の庭

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魔女の庭

面接からの帰り路。 いつもの魔女の庭に、老婦人が立っていた。 私は堪らなくなって「こんにちは」とかすかに声をふるわせて、話かけてみた。 すると、老婦人は快活に笑い、 「ぐちゃぐちゃな庭でしょう?」 と私に言った。とんでもないと思った。 黄や薄いクリーム色の薔薇が咲き、純白の芍薬は、朝露にまだ濡れている。 「私の好きな花ばかり植えたの、」 だから見る人が見ればめちゃくちゃな庭なのよ、と、魔女は笑った。 それでも、やっぱり美しく、素晴らしい庭だと、私は一生懸命に伝える。 こちらは、これからが旬の、葉が瑞々しい紫陽花。 年中花を付ける、椿の木。 「あらそう?そういうものかしら。」 魔女は幾度となく首を傾げた。 「ちょっと待っていて、」と魔女は奥の方から剪定鋏を取り出して来、私に向かって。 「貴女が好きなものを切りなさいな、」  あげるわ、と言った。 私はあんまりにもびっくりして、そんな事は出来ない。出来たとしても、魔女がいらないと思った花が欲しい、と懸命に訴えた。 すると魔女は、さっと根本から茎を切り、帰ったら水切りしてね、と微笑んだ。 「じゃあ私、面接が受かったら、何かお礼を持って来ます。その時はどうか受け取って下さい。」 意地でも、私ばかり貰うのは気が引けての提案だった。 魔女は、ではそうしましょう、と言い、午前中は居るから、欲しい花があったら呼鈴を鳴らしてとの事を、簡潔に話す。 手短に、新聞紙で包まれた沢山の、ばら達。 帰り路。面接の、帰り路。 魔女の庭に居たのは老婦人で、そして其の女性はやっぱり、魔女だった。 私の左手の中で、ガサガサと新聞紙が鳴る。私の心も、嬉しさで高鳴ってしまう。顔がにやつくのを、抑えられ無い。 ばらの甘い香りと、小さな蜜蜂。 其れに、新緑に染まった、庭。 ……曇天でも、私の心は晴れやかだ。
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