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ハトゥール喫茶店
僕が愛して止まない、恐らく。
純喫茶、と呼ばれる店。
其れが「ハトゥール珈琲店」。
そして何時も決まって現れる、猫。
看板猫?と、寡黙な青年店主に訊ねるも、返ってくるのは無論、静寂。
良い、良いね。
此の、謎に包まれた感じ、筆がのる。
そうは思わないか、なあ、猫君。
✴︎
萬年筆が原稿用紙を走る、音。
珈琲を淹れる、薫り。
静謐な雰囲気の中に投げられた、猫の鳴き声。
湯気みたいに逃がさない様に、総てを書き留める。
書き止める。
言葉にならない雰囲気も、全部全部、記す。
逃してなるものか。
だって僕はさ。
此の店が、大好きなんだ。
珈琲色の謎が満ち溢れる、純喫茶。
✴︎
ハトゥール喫茶店の席数は少ない。
歴代の物書きが残したであろう煙草の匂い。
古書と洋墨の香り、珈琲の香ばしさ。
そして燻る飴色の夢泡沫。
本来の樹が残るのは手触りだけだ。
其の椅子に座るは一匹の、猫。
煌く睛が、席につく資格を見定める。
さあ、猫裁判の開廷だ。
✴︎
凍てつく雨粒がざあざあと、ハトゥール喫茶店の扉向こうで天蚕糸を作る。
珈琲を落とす湯の温度も、何時もより熱めだ。
無口な御店主の眼前を、悠々と歩く、一匹。
静謐な空気感、続く雨音、純喫茶、それに、猫。
僕は意識を埋没させ、最初の一字を書きに掛かる。
水曜日の文学猫 と。
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