約束のクリスマス

2/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 インターフォンを鳴らしたが返事はない。  用事が出来たとか言って、本当は居眠りでもしているんだろう。そう思いながら合鍵で彼の部屋に入った。散らかったワンルーム、そこに彼の姿は無かった。  本当に急な仕事でも入ったのかもしれないと思いながら、彼のベッドに腰掛ける。  狭い部屋の中央、無造作に置かれたノートパソコン。その下敷きにされている不動産屋のパンフレット。それを見て、私は涙が出てきた。  このパンフレットが、今、隆司にはパソコンの下敷きにする程度のものだということに、改めて気付かされたから。  隆司と私は、大学で知り合い付き合い始めた。お互い社会人になった1年目、去年のクリスマスに隆司がいった言葉。  「来年のクリスマスは、一緒に生活する部屋で迎えよう。」  その時は嬉しかった。結婚するなら隆司って決めいていた。でも、それからしばらくして私は隆司の変化に気づいた。  隆司はかなりものぐさな性格である。今日できることは明日もしない という主義だ。表面的に見ればかなりだらしない。  しかし、大切なことは誰よりも完璧にこなす。そんなギャップが隆司の魅力。  でも、あれから一年。  隆司は、私と一緒に住むことについて、後回しにし続けた。  つまり、去年のクリスマスに隆司が言った約束は、今の隆司にとって 大切なこと ではないという意味になる。だからパンフレットもパソコンの下敷きにされているんだ。  そんなことを考えながらため息をついたら、玄関ドアがガチャと音をたてた。 「美樹、来てたのか。遅くなってごめんね。」  隆司は部屋に入ると、私が手に持っている不動産屋のパンフレットに目線を向けた。しかし、すぐに視線を外し、何も気づかなかったかのようにしている。 「さぁ、出かけようか。」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加