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インターフォンを鳴らしたが返事はない。
用事が出来たとか言って、本当は居眠りでもしているんだろう。そう思いながら合鍵で彼の部屋に入った。散らかったワンルーム、そこに彼の姿は無かった。
本当に急な仕事でも入ったのかもしれないと思いながら、彼のベッドに腰掛ける。
狭い部屋の中央、無造作に置かれたノートパソコン。その下敷きにされている不動産屋のパンフレット。それを見て、私は涙が出てきた。
このパンフレットが、今、隆司にはパソコンの下敷きにする程度のものだということに、改めて気付かされたから。
隆司と私は、大学で知り合い付き合い始めた。お互い社会人になった1年目、去年のクリスマスに隆司がいった言葉。
「来年のクリスマスは、一緒に生活する部屋で迎えよう。」
その時は嬉しかった。結婚するなら隆司って決めいていた。でも、それからしばらくして私は隆司の変化に気づいた。
隆司はかなりものぐさな性格である。今日できることは明日もしない という主義だ。表面的に見ればかなりだらしない。
しかし、大切なことは誰よりも完璧にこなす。そんなギャップが隆司の魅力。
でも、あれから一年。
隆司は、私と一緒に住むことについて、後回しにし続けた。
つまり、去年のクリスマスに隆司が言った約束は、今の隆司にとって 大切なこと ではないという意味になる。だからパンフレットもパソコンの下敷きにされているんだ。
そんなことを考えながらため息をついたら、玄関ドアがガチャと音をたてた。
「美樹、来てたのか。遅くなってごめんね。」
隆司は部屋に入ると、私が手に持っている不動産屋のパンフレットに目線を向けた。しかし、すぐに視線を外し、何も気づかなかったかのようにしている。
「さぁ、出かけようか。」
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