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今日の目的地がマンションの下見と知り、私は、隆司の横を歩いていたら、不満と悲しさが溢れてきた。
今日のお昼前、どんな服を着ていこうかとルンルン気分で服を選んでいたことも、
早めに化粧を済ませてしまって、ドキドキしながら連絡を待っていたことも、
去年、隆司がしてくれた約束にうれしくて涙をながしたことも、
大学で彼が告白してくれた日の夜、嬉しくて眠れなかったことも、
今まで、隆司とのことで浮かれていた自分を情けなく思い、目頭が熱くなってきた。
涙が溢れそうなのを必死で堪えながら私は言った。
「隆司、私もう無理だよ。」
「ついた、ここだ。」
私の言葉を打ち消すように隆司は言った。
私は言いかけたことを言うタイミングを失い、隆司に続いてマンションに入る。
駅から徒歩5分ほど。
隣がコンビニで、築2年のまだ新しい建物。
エントランスホールからセキュリティロックのガラスドアがある。
驚くほどいい物件だ。
エレベータの中で隆司が低いトーンで言った。
「言いたいことは後で聞くよ。でも、部屋を見てからにしてくれ。」
私は腹がたった。
良い物件の綺麗な部屋を見せたら、私の不満が収まる。私をそんな浅はかな女だと見ているのかと、怒が沸き上がってきた。
5回でエレベーターのドアが開いた。
望み通り、部屋を見たうえで、別れを告げてやろうと決心しながらエレベーターから出る。
501号室のドアを隆司が開ける。
ドアを開けると玄関土間には クリーニング済 土足厳禁 と書かれた紙が置かれている。
普段は内見の際は玄関の外に靴を脱ぐが、今日は隆司が玄関の中で靴を脱いだ。
ふん、そうやって適当な人間に落ちていくんだな。
既に私の心は、隆司のすべてを嫌うかの状態だった。
リビングの方からぼんやりとしたオレンジ色の光が見えた。
ブレーカーも落とさず、豆電球付けっぱなしなんて、ダメダメな不動産屋だ。
そんな風に感じるほど、私の心は真っ暗だ。
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