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水子のココロ2
「ちがうちがう、そうじゃないって。サチってほら、何が起きても動じなさそうじゃん?クラスでも浮いてるってゆーか……あ、もちろんいい意味で」
「いい意味で浮いてるってなに。教祖的な?」
「いちいち突っ込まないでよ」
「空気読まないって言われてんのは知ってる」
「マイペースでかっこいいじゃん。まわりに流されず我が道を行くスタイル」
まあ、それはよく言われる。自慢じゃないが空気を読まないことにかけては小学生の頃から一家言ある。
空気は読むんじゃない、吸うものだ。おいしければなおいい。
ぶっちゃけ病院に付いてきてほしいと拝み倒されて面食らったが、生理不順を診てもらいにいくだけと判明し、通学路からは外れるけどまあいいか、とちょっと寄り道気分で同伴して現在に至る。
私はださいセーラー服の生地を摘まんで指摘する。
「一回家帰って着替えてきたほうがよくない?制服のまんまじゃ学校バレバレで悪目立ちだよ」
「サチの気が変わらないうちに来てほしくて」
「そんなフギリじゃねーし」
「あたしのびびりがでないうちに……」
「なんか言ってくるヤツいたらぶっとばしてやるのに。全治一週間程度を目安に」
「アグレッシブにバイオレンスな思想説くの反対」
「んじゃ全治三日」
「頼る人まちがえたかなあ……でもありがと」
さなは内気で引っ込み思案だ。そんな彼女に婦人科の初診はハードル高い。中学生の女の子はまず場違いだし、知り合いに見られたら非常に気まずい。
いや、最大の問題点は別にある。
「……婦人科と産婦人科セットの医院っきゃないなんて紛らわしい」
身に覚えもないのに妊娠なんて疑われたらたまったもんじゃない。
一応婦人科と産婦人科の診察室は分かれてるみたいだけど、ロビーで待ってるぶんにはどっちがどっちだかわからない。
ネガティブ思考のさなはまた悪い病気がでたみたいで、平べったいお腹をさすり憂鬱げに嘆く。
「はあ……病気だったらどうしよ。子宮がんとか卵巣がんとか婦人科系のヤバいヤツ」
「悪い方に考えたってしかたない」
「赤ちゃん産めなくなったら……」
「子ども好きだもんね」
「サチもでしょ。さっきからきょろきょろして……赤ちゃん抱っこしてるひと多いもんね」
「三か月検診とか産後の相談とかあるんじゃない?よく知らんけど。もっと言っちゃうけど、そんな人目気にすんなら婦人科オンリーのトコ行けばいいじゃん」
「耳鼻科と耳鼻咽喉科みたいな関係じゃないの?だったら喉も見てくれる方が安心感なくない?薬屋さんよかドラッグストアのが色々そろってお得だし」
「選び方の基準が雑」
「だって〜お腹痛くてもう一日だってじっとしてらんない……」
「大丈夫だって」
「他人事だと軽く言うなあ……」
背中を叩いて励ませば呆れ半分にぼやくも、ほんの少しだけ表情が明るくなる。
「次、高尾さーん。いらっしゃいますか高尾さーん」
「あ、はい!」
受付に苗字を呼ばれ、緊張しまくったさなが反射的に腰を浮かす。
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