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水子のココロ3
「廊下を真っ直ぐ行って右の診察室にお入りください」
看護婦さんの説明に従って進みかけ、私を振り向いて「じゃ」と手を振る。
私は「ん」と顎を引き、胸を張っていってこいよと同胞を送り出す。
さちはできるだけ周囲と目を合わせず、きびきび歩く看護婦さんに誘導されて、白く清潔な廊下を進んでいく。
ソファーを埋めた女の人が、奥へ消えていくさなの背中をチラ見して内緒話。
「あの子、中学生くらいでしょ」
「大人しそうなのにね」
「できちゃったのかしら」
「親御さんはどうしたの?隣はともだち?」
「一人で行かせるなんて無責任な彼氏よね」
うるさいババアども。陰口は胎教に悪いって知らないのか。
私は憤慨し、こわもて自慢の三白眼でぎろりと睨んでおく。
一体どんな顔してたのやら、私と視線が絡んだ女の人たちはそそくさと顔を伏せ、おのおの雑誌や私語に戻る。
恥ずかしいことをしてるって自覚はあったみたい、よかった。
「ふん」
傲然と腕を組んでソファーにぽふんとふんぞり返る。行儀悪くスカートをはだけて足を組むのも忘れない。
なんも悪いことしてないんだからさなも堂々としてりゃいいのに。
診察にどれ位かかるかはわからない。漫画はもう読み終えた。手持無沙汰になった私は、癖でスマホをいじろうとして、やっぱやめとくかとポケットにもどす。
ペースメーカーをしてる妊婦さんがいるかどうか知んないけど、いたらちょっとやだから。
ぱらぱらとページを行ったり来たりして、お気にのキャラがでてるシーンだけ反芻してるうちに、私は妙なことに気付く。
向かい側のソファーにじっと座ってる女の人。年齢は二十代後半か三十代前半の、幸薄そうな美人。
この人はどっちだろ。
幸せな側かな、そうじゃない側かな。
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