19人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
水子のココロ4
向かいの女の人が妙に気になって上目遣いに盗み見る。
思い詰めた顔色。暗い眼差し。たぶん、そうじゃない側だ。
産婦人科にはいろんな人がやってくる。子どもがいる人いない人、子どもが欲しい人欲しくない人、産む人に堕ろす人……みんな色んな事情を抱えていると、頭ではわかる。
じろじろ見るのは失礼だと自粛、さりげなく視線を切ろうとして……
「ん?」
胡乱げに眼を細める。
向かいの女の人……こないだ某ファッションセンターで見かけたのとおなじ花柄のブラウスを着てるから、便宜的にしまむらさんと呼ぶことにする……の肩のあたりに、ふわふわと丸い光が浮かんでいる。
目の錯覚かと忙しく瞬き、それでも消えないと目を擦る。
屈折率が関係する光の悪戯?
待合室を見渡すけど、私以外ほかのだれも気付いてないっぽい。
宙に浮かぶ白っぽい光の球は、ふわふわほよほよ、甘えるようにしまむらさんに纏わり付く。
「……もしかして」
後だしで大変恐縮な自己申告だけど、実は私には霊感がある。
ちょっと厨二っぽく言うと、現役バリバリの霊感少女だ。
とはいっても、どっかのお寺生まれのTさんみたいに悪霊を物理で倒したりはできない。前世が超すごい神様だったり大妖怪だったりもしない。たぶん。
通学路で轢かれた三丁目の奥貫さんの飼い犬が、半透明で雑草を食べてるとこにうっかり出くわしちゃっても、基本ただ見て、見過ごすだけだ。
そんな現役バリバリの霊感少女な私は、謎の光の正体を直感する。
「水子だ……」
早い話、生まれてこれなかった赤ちゃんの霊だ。
水子っていうのは流産や死産になった赤ちゃんのことで、私が現在進行形で目撃してるのも、おそらくそれだ。
一瞬恐怖を感じて仰け反る。
いきなり顔を引き攣らせ、手が滑った勢いでカバンを落とした私を、隣の人がふしぎそうに一瞥する。
落ち着けサチ。
産婦人科なんだもの、水子の霊がいたって全然おかしくない。
最初のコメントを投稿しよう!