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中に入ってみたものの、なんだかいつもの図書館と、わずかに雰囲気が違う気がする。
赤レンガで覆われた作りの古い建物なので、日が当たらないのは本にとってとても良いことのはずなのだが、春の午後にしては随分暗すぎるように感じるのだ。
それに、明かりも蛍光灯ではなく、オレンジ色のランプシェードがぽつりぽつりと点っているだけで、とても本を読む環境ではない。
世間では春休みなのだから、子供が何人か来ていてもおかしくないのに、まるで人の気配がしない。
新聞をめくる老人の咳払いや、柔らかなカーペットの上を走る幼子の足音も、誰かがパソコンを利用する、キーボードのタイピング音も、何もしない。
聞こえるのは、暑くも寒くもない温度に調整する空調の音。それだけだ。
私は少し怖くなり、司書を探した。
「すみません! 誰かいませんか!?」
私は、図書館内にあるまじき大きな声を出した。
初めは歩いていたのに、いつの間にか小走りになり、気が付くと全力疾走していた。息を切らしていないと、恐怖で歯がなりそうだった。
私を取り囲むすべての本には、色も、タイトルも、何もなかった。
本棚の中は、真っ白な背表紙の本で埋めつくされていた。
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