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「あの、さっきから、その『感情図書館』というのが、私には分からなくて……」
私は、なんだかその本を持つのが嫌で、すぐに受付カウンターに置いた。
「『感情図書館』は、読んで字の通り、感情の図書館ですね。お兄さん、普段、図書館はどんなときに利用されますか?」
「えっ……。そうですね、読みたい本を探しに来たり……。それに今日は、知りたい事があって図書館に来て……」
「そうなんです。今まで沢山の方が記録した情報を『知りたい』と思って利用するのが、本の図書館。でもここは、感情図書館。今まで沢山の方が抱いた『感情』を記録、保管して、『その感情の理由を知りたい』と思った方が利用しに来るのが、この感情図書館なんです!」
彼女は鼻息荒く、両手を広げた。
「はあ……」
よく意味が分からないが、あまり刺激するのはやめよう、と思った。
こんな異常な空間で二人きりだと、なにをされるか分からない。
「まあ、生身の人間にはまだ早いかも知れませんね。百聞は一見に如かず。今から活躍するところを、しかとご覧下さいよ」
鳩麦さんは、そう言うと私の後ろの、何もない空間に手を伸ばした。
「本日は、どのような感情をお探しですか?」
ちりり、と、虚空から鈴の音が聞こえた。
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