ここは感情図書館

7/17
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「映画のことを活動写真と言う時代は限られてるんですよ。明治、大正時代あたりです。だからその時代のキヨカさんという名前の女性を探せば……」 「でも、キヨカなんて名前の人、限られた時代に絞って探しても膨大なんじゃあ……」 「お兄さん、品のあるしゃべり方でキヨカなんて特徴的な名前、そうそう居ませんよ。ある程度のいいとこの出の子でしょう、ほら、お兄さん、こっちの棚です」 「そうは言っても、みんな真っ白でまるで見分けが付かない」 「こんなもんは慣れですよ慣れ。毎日見てりゃ違いが分かるようになるんです。ほら、そっちの棚の高いところ、右から三冊目。脚立でも私には届かないんだから取ってください」 鳩麦さんに言われるまま、私は脚立を使って高い位置の本を取った。 「……人はね、何かを知るために図書館に来るんです」 鳩麦さんは、次々本を引っ張り出しながら、私の方を見ずに言った。 「学びたい、知りたい、調べたい。本の図書館でも、『自分の悲しい気持ちに寄り添う小説が読みたい』だとか、『町の郷土資料に目を通したい』『明るく前向きなマンガを読みたい』とか言う理由で本を探しに来たりするでしょう。でも、探している本が見つからない時は、司書の人に尋ねますよね。ここは、気持ち。『感情』の、理由や答えを探して探して、そのうち見失ってしまった人の心を救う図書館なんです」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!