ここは感情図書館

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「じゃあ、ここに来る人はやっぱり幽霊ーー」 「それがそうとも限らないんですよ。お兄さんは無いですか? 怒りすぎて何に怒ってるのか分からなくなったり、泣きすぎて泣いていた理由を忘れたり」 「うーん、分かるような、分からないような……」 私は記憶力がまるで無いので、曖昧な返事をした。 「そう言う風に、理由を失って感情だけになってしまったら、その感情だけが取り残されて、一人で訪ねに来るんですよ。生きてるとか、死んでるとかは関係無い。案外、お兄さんの感情も、もうここに来たことがあるのかも知れない」 ぱらぱらとページをめくっていた鳩麦さんが、ぱたんと音をたてて本を閉じた。 「さあ、次はそっちの本棚ですよ!」 鳩麦さんが声を出したとき、鈴の音が聞こえた。 『あ、あの、よろしいかしら……』 音のする方には、少女の腰から下、足先までが、うっすらと透けて立っていた。
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