11、仮決!公立女子

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11、仮決!公立女子

「そんな感じで言われる程じゃなくてさ、ただ『あなた好き』って言ったような感じがしただけだから」  成瀬は少し控えめな言い方に変えてきた。 「だけって何だよ、全部お前の想像って可能性もあるじゃないか」牧野は少し呆れた感じで言った。 「最初から誰も断言してないだろ。お前らが勝手に盛り上がってるんだろう」 「なんだよ、親身になってやったのによお」  なぜか急に険悪なムードになってきた。 「まぁまぁまぁ」毛利先輩が割って入った「ここはそんなことが大事なわけではない。狸祭に何するかだろ」 (そうそれ、真っ当な正論) 「もう本当に続きはないよ。それっきり彼女を見かけてない。まぁそのうち会うかもしれないけど」と成瀬は照れ笑いをした。  一同呆れた空気になった。 「何やってんだよ、そんな偶然が何度も起こるわけないだろう」  牧野が前のめりになった。 「奇跡に二度目はないぞ」  佐伯も皮肉っぽい目線を成瀬に向ける。 「なぜ……彼女を追っかけなかった」  伊藤が珍しく長めの言葉を発した。 「もしくは中目黒のホームで彼女の戻りをひたすら待つとかさ」  牧野が伊藤の言葉に被せた。 「仏がくれたチャンスを無駄にするなだな」  何のことは分からないが佐伯が仏教にちょっと絡めたことは分かる。  押され気味の成瀬は 「もしそれが自分だったら絶対やんないだろ」と言い返した。 「やるよ。俺はやるね」 「嘘だ」  あぁ無意味な意地の張り合い。 「まぁまぁ、まてまて、この事象が発生したのが先週だ、消えた彼女は遠くまで行っていない」  清田がまた議論に割って入った。 「そうだな獲物の匂いはまだ残っているということだな……」  毛利先輩が意味深な言い方で援護した。 「えっ、どういうこと?」  成瀬も言わんとすることをはかりかねた。 「ここからは俺たちにまかせてくれ。これは彼女から俺たちへの挑戦だよ」  清田が訳の分からないことを言い出した。 「なんで俺達になるの?」 「水臭いことを言っては困るよ。彼女が残した謎を紐解き、我々は学祭でそれを新作落語として発表する。ラブとミステリー要素のある画期的な新作落語になる! これは当たるよ」  文連ルーム恒例の清田立ち上がり宣言。 「我々は背水の陣だ」「みんなで協力しよう」「ギブアンドテイクだよ」「何か盛り上がってきましたね」「いい感じですね」  話に飽き始めていた一同は、勢いまとまった感じになった。 (いやそうかな、なんでそんな自信持てる。これみんなめんどくさいから清田のまとめに乗っかっただけだろ) 「じゃあ、話に組み立てる上で、ここからは情報の補完だな」  そういうと清田はルームの奥からホワイトボードを引っ張って来た。 「渡辺君悪いが板書を頼む」  それまで身を潜めてジッとしていたのに。 (やっぱり書記を頼まれた。覚えてんだな) 「まずは彼女の服装だな。成瀬どんな感じだった?」 「えーっと髪は長めで、スカート、黒か紺のカーディガンだったな」 (だいたいそうだわ。女子描写力激弱か!)  俺は心で思いながらしょうがないから成瀬のいう事を何でもかんでも書き留めた。 「ほうこれでセーラー服ではないことがわかった。同じ駅を使う東陽英知ではないな」  六本木の有名なお嬢様学校は茶系のセーラー服だった。 「アイツらは俺達に興味無いからな」 「そうそう」  最も近場な女子校だけに狸穴生は普段から愛憎半ばのようだ。でもそれ相手にされない一方的なヒガミだろ。 「私立の西麻布学園でもない。聖真でもない」  佐伯がまた付近の私立女子高の名前をあげた。 「やけに詳しいなぁ」 「妹が行ってるからな」 「おーぉ! 紹介しろ」 「断る!」 「紹介されても困るくせに」 「まぁーな。はははは」  いや不毛だなこのガヤ会話。もっと面白い話しろ。 「まぁいい、他にネクタイとか小物で学校名とか分かるものなかったか」  清田がさらにディテールを求める。でもいい質問だ。 「ネクタイはしてたな紺色? シャツは白だったような」 「薄い情報ありがとう、それじゃ全然だめだ」  清田は成瀬の記憶力に落胆した。 「他は例えば、彼女のカバンはどんな感じだった」  佐伯が楽しそうに聞いてきた。  いいとこに目を付けた! 確かにカバン学校名書いてある。 「うーん、リュックだったような気がするなぁ」 「リュック!」  何人かが声を上げた。なぜいきり立つ! 「リュック、つまりその子はおそらく公立だ!」  清田が右手の人差し指を上げていった。 「公立だ」「公立」「コーリツ」  男たちは騒がしくなった。 「……公立の女子は男に優しいらしいね」  伊藤が声をだした。 「そういう説になってるな。普段から男の弱点を見ているから許容力があると言われてるな」  牧野が真面目そうな顔でいった。 「そうだな。普段から男ともしゃべってるからフランクで親しみやすいっていうよね」  そんな伝説あんのか? 中学から私立の狸穴生にとって公立共学高は、仏教国から見たキリスト教やイスラム教国のように見知らぬ多数派存在のようだ。 「いや、まだリュックと非セーラー服だけで公立とは断定するには早いぞ」  清田が盛り上がる一同に冷や水を浴びせかけた。 「そうだ確かにまだ分からん。学校名のヒントでもわかればな。そのリュックに何かマークとかなかったの?」 「いや分からん」 「おもろくないなぁ」 「おもろくするために言ってるんじゃないよ」  また水掛け論が始まりかけた。 「そうだ、髪は?」  急に毛利先輩が成瀬に顔を向けた。 「髪はどうだったかって聞いてんの」 「えっ、黒です」  もうこの人答えにセンスないなぁ。 「まぁそうだと思うけど、そうじゃなくて、ヘアースタイルだ」 「くくってなかったな。伸ばしっぱなしだった」  (伸ばしっぱなし!原始人の描写か!)   俺が筆記を諦めたそのとき、毛利先輩が手を叩いた。 「はい、これでわかった公立可能性99%だ」 「それでわかんのかい」 「私立女子高は髪を束ねる、髪を編むのが校則だ」 「おお」 「渡辺君、公立女子仮決と書いといて」  清田会長から指示が出た。 (意味あんのかなこの作業)  そう思いながら、髪を伸ばしてカーディガンでリュックを背負った絵を描き、その横に公立(仮決)と付け加えた。
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