3、文連の六会長

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3、文連の六会長

「そういえば彼は新入りかい?」  突然そのうちの一人が俺に気づいた。 「そうらしい、大阪の森ノ宮学園からの転校生」  ラノベ会長が言うと「おぉ」という声が上がった。珍しいようだ。 「今日、思うところあって、我ら文連に興味を持って訪ねてきてくれた。希望の星・四年の渡辺くんだ」  ラノベ会長は全て劇的に盛って来るようだ。 「ようこそ友よ、何でも聞いてくれ。俺ラジ研会長の成瀬。仲良くしよう」  チャラい金髪が急に拳を突き出し俺にグータッチを要求した。この人がラジオ研究会? 理系っぽい地味な名前なので意外すぎる。 「あのぉ、ラジオ研究会ってどんな活動をしてるんですか?」。 「DJに決まってんじゃねーか」  意外にも答えはシンプルだった。 「ディージェーって、あのクラブとかでやってるあれですか?」 「そうだよ」 「でも、なんで、ラジオ研究会って名前になってるんですか…」 「昔は本当に自分たちでラジオ作ったり、無線で音楽流してたりしてたらしいが、俺が入った時にはDJの練習する部活になってた。伝統あるラジオ研究会のライブラリーには70年代からの日本の歌謡曲のレアグルーブレコードが豊富にそろっている」  そういうと金髪会長は背後のロッカーを左右に開いた。そこには初めて見る大量のレコードが並んでいた。 「部員は高等部と中等部合わせて六人。この後さ放送室でターンテーブルの練習するけどナベも来る?」 (急に「ナベ」呼ばわり! 何だこの人) 「いえ、そっちの方はあんまり興味なくて。ついでにいいですかこの探偵研究会っていうのは何をするんですか?」  隅でマンガを読んでいたジャージの柔道部っぽい男が顔を上げた。 「探偵小説研究会ね、だからミステリー読むに決まってんだろ。俺会長の牧野。入る?」 (この人なのか? どう見ても体育系だぞ) 「ミステリーを読むって? 東野圭吾とかですか?」 「違う! 古典だ! 創部以来、江戸川乱歩と鮎川哲也の読破を基本としている」 「読むだけですか」  外画研と一緒で活動内容は有名無実かもしれない。 「そうだ、文句あるか」 「いえ、でも二人の作家を全部読み終わったらどうするんですか?」  外画研以上に活動範囲が狭すぎると俺は思った。 「読み直す。ひたすら繰り返す。学習とはそういうもんだ」  見た目柔道系会長の牧野は何故か深く頷いた。いや、何のメッセージも俺には刺さってこないけど。 「じゃあ、活動は学校で小説を読むだけですか?」 「家だ」 「えっ、それは趣味では」 「それをいうな。誰にも理解されないのは分かっている。もうひとりも6年だからこの部は俺の代終わらせる」  そう言うとまたマンガを読み始めた。小説読んでないじゃないか。今まで続いていたことが謎だ。 「あのぉ、もう一つ現代文化研究会は何してるんですか?」  僕は誰が会長か見当がつかずテーブルを見回した。 「会長の佐伯だ。主に株の運用と企業研究とだけ答えておく」  小柄なジュニア顔の人が甲高い声を出した。この人なのか? てっきり釣りか落語と思っていたが意外。 「具体的には何を?」 「渡辺くん、起業って知ってるかな? 会社を起こすという意味だよね。君はいい大学に入って良い企業に入るためにこの学校に来たんだろ。でもね、それは間違いなんだよ。会社に入って何十年も組織の下で働けば報われるという時代はとっくに終わってるんだよね。その呪縛から逃げ出すには、まず起業しキャピタルゲインを得て、そして投資を早いうちからすること。それが勝ち組になる為の世界共通で唯一のルールなんだよね」  可愛い顔して言うことは自己啓発セミナーみたいな人だった。 「そもそも現文研自体が日本の過ちの縮図みたいな部で…」  ジュニア会長が説明するには、元々は現文研は、60年代の学生運動時期に起こった反戦活動の尖った部活だったが、時代が進むにつれ哲学研究会、ボランティア研究や、田舎暮らし研究などその時々のブームに乗って紆余曲折を経て、現在は起業家を目指す学生の情報交換の場になっているらしい。 「現在部員は9名で、君が入れば十人で部に昇格出来る。どう興味ある?」  ジュニアは俺の目をじっと見つめてきた。 「ちょっと気になります」  俺は他の研究会よりまだ未来はある感じがした。 「でも入会するには、まずは10万円を投資しなきゃいけないんだけど、君出来るよね?」 「えっ」  俺はその本格詐欺師口調に動揺し、周りに助けを求めた。  他の会長は笑っている。 「池内その辺で許してやってよ」  外画清田会長が間に割って入ってくれた。 「冗談、冗談。でも部になると色々活動報告しないといけないし、細かく会計もチェックされるし、正直面倒なんだよね。だから定員九人。僕が卒業したら入ってよ」  ジュニア顔のセミナー会長も笑っていた。どこまで本当か、嘘か分からない。でもこの人が一番やばい感じがした。  あと残りの二人のうち、ヒゲのおっさん風が釣り同好会会長だった。やはり年上で皆んなから「毛利さん」とさん付けで呼ばれている。 「フナ釣りにハマっているうちに留年した」と話していた。  そして残りの猫背で暗い人が消去法で落語研究会の会長(伊藤)だと分かった。周りを神経質そうにキョロキョロ見ながら一言も発さない。この人から面白い感じは全くしない。  実態が分かりにくすぎる。 
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