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宇宙――空気や水がなく、ただただ広い暗闇で星が奇妙に浮かんでいる空間。 動物をこよなく愛する私にとって、宇宙とは「死の海」でしかない。 「宇宙旅行なんてものは、狂人のためにある」 そう考える私には縁がないはずの場所――ウィスコンシン州にある米宇宙開拓所にて、今日何度目かのサインを書きながら、私は自分の体が震えるのを感じていた。 この震えは、決して恐怖からくるものではない。 寒さからでもない。 これは、言うなれば武者震い――私は興奮しているのだ。 「デイヴィッドさん、ご協力ありがとうございました。事前準備は以上となります。旅行中も、専用の回線であれば外部との連絡はご自由にとっていただいて構いませんが……」 スタッフが、ピシッと1枚の紙を掲げながら鋭い眼光を私に向けた。 「くれぐれも、ですよ?」 「わかっているよ、安心してくれ。私は"宇宙(スペース)アニマル"の味方だからね。言いふらして危険にさらすようなことはしないさ」 私が宇宙(スペース)アニマルの存在を知ったのは、先月のこと。 恩師が引退する際に、 「デイヴィッド、最近"あれ"を握る機会が少ないんじゃないか? どうだい、気分転換に」と言って、宇宙(スペース)サファリパークのチケットを私に持たせ、ここ――米宇宙開拓所の宇宙(スペース)ポートに導いてくださったのだ。 私は大学院を卒業してから数年で動物学者としての地位を確立した。喜ばしいことであったが、同時に心が冷めていくのを感じていた。研究所や大学でのやり取りに追われる日々の中で、私の心は老いていったのだ。 「早々に隠居してしまおうか」などと言っては、妻を困らせてきたこの私が、興奮に体を震わせ子供のように目を輝かせている姿など、いったい誰が想像できただろうか。 スタッフの案内にしたがい、私は弾む足取りで特大のスーツケースを引き連れ、宇宙遊覧船――1人乗りにしてはやけに大きな楕円の船、通称 "eggshell" (卵の殻)に乗り込んだ。
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