"eggshell" (卵の殻)

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"eggshell" (卵の殻)

"eggshell" (卵の殻)は、白を基調としたモデルルームのような内装をしている。 不気味なほど整っている部屋の中で、まずはデスクを自分の空間へと変えていく。 ノートや資料、お菓子(冬はもっぱらチョコレートだ)……最後に万年筆を箱から取り出し、デスクに置いた。 私の心に、大学院修了時の晴れやかさがよみがえる。 ぽーん。 柔らかい電子音が鳴り、アナウンスが船内に響いた。 『こんにちは。"宇宙(スペース)サファリパーク"へようこそ。 専属ガイドの試作品である私が、高名な動物学者である貴方のガイドを務めさせていただけること、大変光栄に思います。 3ヶ月にわたる長旅が、貴方にとって快適でありますよう、誠心誠意サポートいたします。とは言いましても――』 「キミ、名前は?」 私はイスの座り心地を確かめながら問いかけた。 『私の製造番号はK05です。どうぞ "コッコ" とお呼びください』 「なるほど、いいネーミングセンスだ」 『ありがとうございます。 "eggshell" (卵の殻)では人工重力発生装置により普段通りの生活が可能です。 食事、排泄、入浴、睡眠……何をするにも地球と変わりありません。 離着陸時の負荷も極限まで抑えることに成功しています。どうぞ気楽にお過ごしください。 今回は、宇宙(スペース)ミーアキャットの星磨きに関する調査と伺っています。お間違いはありませんか?』 「ああ」 『それでは、冬の夜空へと出発します』 ブワン、ウィーン。 窓に青空が広がった。なんの衝撃もなく、船が一瞬にして空へ舞い上がったらしい。
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