11人が本棚に入れています
本棚に追加
"eggshell" (卵の殻)
"eggshell" (卵の殻)は、白を基調としたモデルルームのような内装をしている。
不気味なほど整っている部屋の中で、まずはデスクを自分の空間へと変えていく。
ノートや資料、お菓子(冬はもっぱらチョコレートだ)……最後に万年筆を箱から取り出し、デスクに置いた。
私の心に、大学院修了時の晴れやかさがよみがえる。
ぽーん。
柔らかい電子音が鳴り、アナウンスが船内に響いた。
『こんにちは。"宇宙サファリパーク"へようこそ。
専属ガイドの試作品である私が、高名な動物学者である貴方のガイドを務めさせていただけること、大変光栄に思います。
3ヶ月にわたる長旅が、貴方にとって快適でありますよう、誠心誠意サポートいたします。とは言いましても――』
「キミ、名前は?」
私はイスの座り心地を確かめながら問いかけた。
『私の製造番号はK05です。どうぞ "コッコ" とお呼びください』
「なるほど、いいネーミングセンスだ」
『ありがとうございます。
"eggshell" (卵の殻)では人工重力発生装置により普段通りの生活が可能です。
食事、排泄、入浴、睡眠……何をするにも地球と変わりありません。
離着陸時の負荷も極限まで抑えることに成功しています。どうぞ気楽にお過ごしください。
今回は、宇宙ミーアキャットの星磨きに関する調査と伺っています。お間違いはありませんか?』
「ああ」
『それでは、冬の夜空へと出発します』
ブワン、ウィーン。
窓に青空が広がった。なんの衝撃もなく、船が一瞬にして空へ舞い上がったらしい。
最初のコメントを投稿しよう!