2月14日

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2月14日

「今日は、チョコを作ろうと思うんだ」 「ならまずは、カカオを買わないとですね」 「そんな一からは作らないよっ!!」  当日じゃ遅いのでは?と思いつつ、"バレンタインチョコの作り方特集!!"と書かれた本をまじまじと見つめる。やっぱり、当日は遅い。 「私、こないだ簡単なチョコレートの作り方を、春崎さんに教わったんだっ!! 」 「カカオ粉を使うとかですか?」 「そんな事じゃないよ!!」  華麗なツッコミ。つっこまれるであろう事とそういう意味で言っているわけではないことも承知の上、ただそれを察せずに大声でつっこんでくるオーバーリアクションが、何やら滑稽で面白かっただけだ。 「ったく......ほら、この本!!この本のこれ!!」 「......クランチチョコ?」 「そーそれ!!簡単そうでしょ!!砕いて溶かしてばっ!!だよ!!」  擬音と所々端折られた説明じゃ訳が分からない。第一、君にチョコを渡す相手でもいるのか。 そう、男子から女子に対する質問としては比較的デリカシーのない方であろう問いを投げかけると、 「ひ、一人くらいはいるさ!!」 と、少しだけばつが悪そうに目を閉じて腕を組んで答える彼女。 「例えば?」 「き、君とかね!」 「ロマンチックの欠片も無い」 「酷いね相変わらずっ!!」 その反応がどこか面白くて、ついつい軽い追い打ちをかけてしまった。  そう涙目になってまで怒らなくても...あと彼女がさっきからぽこぽこと手で叩いてきてるのが地味に痛い。 「分からずやっ!!隠しておきたい女子の気持ちがわからないのっ?」 「今君、素直に言いましたよね」 「あーもー口が軽くてごめんねぇ!!」  やけくそすぎる。早くもぶっきらぼうにチョコ作りに励み始めた彼女は、手で適当に折ったチョコレートをボウルに投げ入れて、カタカタカタカタと混ぜている。まだ温めていないから、溶けるはずはないのだが。 「それ、貸してください。温めます」 「溶かしてくれるんだね!助かるよ!!」  ボウルを素直に渡してくれた彼女は、期待の目でこちらを見ている。チョコレートをレンジに放り込んで600w40秒を4回。すっかり溶けきったチョコレートに、彼女はシリアルを放り込んだ。  ざく、ざくという小気味よい軽い音と共に混ぜられていくシリアルチョコレート。来年も、食べられるのだろうか。 「......ほいっ!もう固めるのめんどくさいからこれでいいよね?はい、ハッピーバレンタイン!!」 「......ありがとうございます」 いや、目の前で錬成されようとしていたものをそのまま渡されても...そう思いつつも、白い手がこちらに差し出している、バレンタインデーギフトの途中経過の入ったボウルを受け取る。 「満更でもなさそうにしなよ!あとね、ホワイトデーは期待しとくから!!」 「そうですか」 「絶対頂戴ね!!」  ぷくり。彼女が空気をめいっぱい詰め込んで膨らませた頬からは、そう効果音が聞こえてきそうだ。  ホワイトデー、何をあげようか。  これはきっと、何かをあげないとしょげてしまうか、嫌われてしまうパターンのやつだ。嫌われて、月一のチャンスを棒に振ってしまうようでは駄目だ。  そう考えて、とりあえず来週、近所の複合型商業施設のホワイトデーチョコレートフェアに行くことに決めた。
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