4月30日

1/2

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

4月30日

真っ白い部屋、天井に設置されたカーテンレール。白磁のレース生地のカーテンの隙間から窓をこっ......っそり覗けば、下一面に桜がいっぱい。暇な時にいつも眺めてる通りも、完全に春めいてる。 「うーん、今月は遅いな」  外に出られなくなってから1年......いや、厳密に言えば外に出られないこともないんだけど......在宅とか今時あるし。でも...... 「......おっ母、もう居ないもんね......他に血縁もいないし、仕方ないか」  まあ、寂しくはない。 「ちゃんとお見舞いに来てくれる人、一人だし月一だけど...滅多に会えないし、向こうも向こうで忙しいみたいだけど...」 寂しくなんかない、 「......今月も、もう末だな...」 寂しく、なんか...... 「…...ひっく、ぐすっ......うええええ、き、君が来てくれないとお、来てくれないとぉ......ひっく、うえ、ええええん......」  もう、泣くことしかできないよ......視界全体白いだけだし、目を閉じたってほとんど変わらないし...... 「うええええん、うええええ......」 「(しろがね)さん、お手紙ここに置いておきますからねー......」 「ひっく、うん......?」  ん、あれ、今誰か来た?あれ、あれ?君の声はしなかったよ?あと誰か今なんか言ったよね?わかんないや。  あ、でも一瞬黒と肌色がぼやっと見えたし、来たんだね! 「おーい、おーい、来たんでしょ〜?来たんだよね〜?」  ははーあ、さては隠れんぼしようって算段かな?そう思ってじっ......っくりと目を凝らしてみても、人らしき色合いのものは見つからない。 ......最近、なんとなくだけど私の目が調子悪いの知っててこれか〜あ。やっぱりドライモンスターだよ、君ってやつは! 優しいけど、ちょっぴり意地悪だし......隠れるとしたら... 「んー?どこだいどこだーい?隠れたって無駄だぞー!!」 声をかけながら、ぼやけた世界を動き回って探してみる。棚の下、ベッドの下、廊下、窓の外側、 「今に元気になって......って、あれ?あれれ〜?」 棚の中、枕の下、ベッドのシーツと布団の間...... 部屋中をくまなく探してみたけど、君はどこにもいない。もちろん、人の大きさ的に絶対に入らないって分かってるところも、何度も、何度も。繰り返し、繰り返し名前を呼びながら。 「ん〜......」 ......う、お腹空いた...時間、どのくらい経ったんだろう... そうこうしているうちに、肩が悲鳴を上げ始めて、お腹も何かを訴えかけるように声を上げだした。 今日の中では久しく使うことのなかった鼻が、唐突に存在感をかもし出し始める。......いい匂いだ〜!今日の晩御飯かなぁ、久しぶりにがっつりステーキとか食べたいな〜...... そんなことを考えていたら、病室のドアがコンコンコン、と誰かに叩かれて音を出して、 「......失礼します」 ガラガラ、という音と共に見慣れた顔が覗いた。 「あっ、春崎さん!!」 「璙さん、どうしました?さっきからずっと声と音が周りに......」 「え、聞こえてた!?ごめんなさい〜!!」 この人は、担当看護師の春崎 領子(はるさき れいこ)さん。優しいんだけど、何でか怖がられてる人。私にも、見舞いに来てくれるあの子にも良く接してくれる、本っ当に心優しい人なんだよ〜!! そんな春崎さんは、私があの子を探す時に立ててた物音とか声とかを聞きつけて、来てくれたみたい。......来てくれた、って、別に呼んだわけじゃないんだけどね、いてくれるだけで嬉しいから... そう思うと、割と真面目に謝ってるのに、何でか口角が上がっちゃう。ふふふ...... 「別に構いませんよ。ところで......お手紙はもう読まれました?」 「へ?手紙?」 手紙って、なんのこと? あまりピンと来ないで私が首を傾げてる間にも、春崎さんはテキパキと夕食の用意を進めていく。 ステーキじゃないけど、普通に美味しいご飯が目の前に並べられていって、何だかますますお腹がすいてきた。手紙について考えるのは、ご飯食べた後でもいいかな。 「はい、用意できましたよ」 「うんっ!ありがと〜!!」 目の前のベッドサイドテーブルの上には、しっかりパリパリに焼かれた、だけど脂が乗っていててかてかしてる焼き鮭と、三葉に玉ねぎに油揚げと具沢山で栄養たっぷりな味噌汁。それと、もうもうと湯気を吐き出しているあつあつの白ご飯。......美味しそう......! それに見とれるのと並行して、横に置かれた麦茶を(よだれ)といっしょにぐいっと呷ってみる。 「にひひ、いただきます!!」 手を合わせて元気よく挨拶してから、思いっきりご飯を頬張った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加