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4月30日
真っ白い部屋、天井に設置されたカーテンレール。白磁のレース生地のカーテンの隙間から窓をこっ......っそり覗けば、下一面に桜がいっぱい。暇な時にいつも眺めてる通りも、完全に春めいてる。
「うーん、今月は遅いな」
外に出られなくなってから1年......いや、厳密に言えば外に出られないこともないんだけど......在宅とか今時あるし。でも......
「......おっ母、もう居ないもんね......他に血縁もいないし、仕方ないか」
まあ、寂しくはない。
「ちゃんとお見舞いに来てくれる人、一人だし月一だけど...滅多に会えないし、向こうも向こうで忙しいみたいだけど...」
寂しくなんかない、
「......今月も、もう末だな...」
寂しく、なんか......
「…...ひっく、ぐすっ......うええええ、き、君が来てくれないとお、来てくれないとぉ......ひっく、うえ、ええええん......」
もう、泣くことしかできないよ......視界全体白いだけだし、目を閉じたってほとんど変わらないし......
「うええええん、うええええ......」
「璙さん、お手紙ここに置いておきますからねー......」
「ひっく、うん......?」
ん、あれ、今誰か来た?あれ、あれ?君の声はしなかったよ?あと誰か今なんか言ったよね?わかんないや。
あ、でも一瞬黒と肌色がぼやっと見えたし、来たんだね!
「おーい、おーい、来たんでしょ〜?来たんだよね〜?」
ははーあ、さては隠れんぼしようって算段かな?そう思ってじっ......っくりと目を凝らしてみても、人らしき色合いのものは見つからない。
......最近、なんとなくだけど私の目が調子悪いの知っててこれか〜あ。やっぱりドライモンスターだよ、君ってやつは!
優しいけど、ちょっぴり意地悪だし......隠れるとしたら...
「んー?どこだいどこだーい?隠れたって無駄だぞー!!」
声をかけながら、ぼやけた世界を動き回って探してみる。棚の下、ベッドの下、廊下、窓の外側、
「今に元気になって......って、あれ?あれれ〜?」
棚の中、枕の下、ベッドのシーツと布団の間......
部屋中をくまなく探してみたけど、君はどこにもいない。もちろん、人の大きさ的に絶対に入らないって分かってるところも、何度も、何度も。繰り返し、繰り返し名前を呼びながら。
「ん〜......」
......う、お腹空いた...時間、どのくらい経ったんだろう...
そうこうしているうちに、肩が悲鳴を上げ始めて、お腹も何かを訴えかけるように声を上げだした。
今日の中では久しく使うことのなかった鼻が、唐突に存在感をかもし出し始める。......いい匂いだ〜!今日の晩御飯かなぁ、久しぶりにがっつりステーキとか食べたいな〜......
そんなことを考えていたら、病室のドアがコンコンコン、と誰かに叩かれて音を出して、
「......失礼します」
ガラガラ、という音と共に見慣れた顔が覗いた。
「あっ、春崎さん!!」
「璙さん、どうしました?さっきからずっと声と音が周りに......」
「え、聞こえてた!?ごめんなさい〜!!」
この人は、担当看護師の春崎 領子さん。優しいんだけど、何でか怖がられてる人。私にも、見舞いに来てくれるあの子にも良く接してくれる、本っ当に心優しい人なんだよ〜!!
そんな春崎さんは、私があの子を探す時に立ててた物音とか声とかを聞きつけて、来てくれたみたい。......来てくれた、って、別に呼んだわけじゃないんだけどね、いてくれるだけで嬉しいから...
そう思うと、割と真面目に謝ってるのに、何でか口角が上がっちゃう。ふふふ......
「別に構いませんよ。ところで......お手紙はもう読まれました?」
「へ?手紙?」
手紙って、なんのこと?
あまりピンと来ないで私が首を傾げてる間にも、春崎さんはテキパキと夕食の用意を進めていく。
ステーキじゃないけど、普通に美味しいご飯が目の前に並べられていって、何だかますますお腹がすいてきた。手紙について考えるのは、ご飯食べた後でもいいかな。
「はい、用意できましたよ」
「うんっ!ありがと〜!!」
目の前のベッドサイドテーブルの上には、しっかりパリパリに焼かれた、だけど脂が乗っていててかてかしてる焼き鮭と、三葉に玉ねぎに油揚げと具沢山で栄養たっぷりな味噌汁。それと、もうもうと湯気を吐き出しているあつあつの白ご飯。......美味しそう......!
それに見とれるのと並行して、横に置かれた麦茶を涎といっしょにぐいっと呷ってみる。
「にひひ、いただきます!!」
手を合わせて元気よく挨拶してから、思いっきりご飯を頬張った。
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