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5月16日
「......先月は、すみませんでした」
「......」
白い布団の塊に向かって、話しかける。上下はしているから微動だにしていないわけではないが、こちらの謝罪に何らかの反応を示す気配は今のところはなさそうだ。
「1ヶ月会わないだけで、これですか」
「......」
そうだ。上下はしている。反応を示す気配がないだけで、決して息をしていないわけではなくて。
手紙送ったのに......とは思うが、いかんせんこの場でそれを言えば、多分、ますます拗ねられる。それだけはごめんだ。
「......せめて顔だけでも見せてください」
「え、ちょ待っ......」
半ば強引に布団をひっぺがして彼女の姿を見た瞬間、時が止まったような気がした。
「......本当に、1ヶ月でこれですか」
......よくこれで生きているなと不思議になるほど痩せこけた頬に、土色の肌。不健康を通り越して生者のものではないその色と見た目。胸の中で、申し訳なさがどんどん降り積もっていくのが分かった。
「......先月、君が来られないってわかってから、ご飯を食べる気がなくなったんだ」
血色のない紫の唇は、そう言葉を紡ぐ。
「申し訳ありません。先月は、諸事情が......」
「......わかってるさ。用事があったことも、君が気遣ってくれてたことも」
いつもの覇気など感じられない顔を、影が覆い尽くしていく。こちらからは感情が読めなくなってしまうほどに影が落ちた後、
「......わかってるよ、血縁関係を切った従兄弟となんて、そう簡単には会えるもんじゃないってね」
そう、切なげに呟いた。
それと同時に、彼女は目を伏せる。顔に淡い白色の光に照らされた薄い影が、彼女の顔をまるで薄いベールのように覆い包む。
「......ねえ、来月は来てくれる?」
「来ますよ、絶対に」
廊下からは、ドア越しに看護師やヘルパー達がパタパタと走り回る音と、他の患者だろうか、何やら喋りながら通り過ぎていく人達の足音が小さく聞こえてくる。
窓の外、緑がまじり始めた街路沿いに並ぶ桜を眺めながら、2人でしばし静寂を聴いていた。
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