0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
プロローグ
辺りは血の臭いで充満していた。
死体があちこちに転がりこの世の地獄と言える場所で二人の人間が戦っていた。
黒髪を結び返り血に染まった甲冑に身を包み白い柄の美しい刀で戦う侍と長い赤髪赤眼
に僧侶の格好をした鬼の少年であった。
鬼の攻撃は岩を砕き大地をえぐるものであったが侍は紙一重で躱しながら斬擊を放った。
侍の攻撃は何度も鬼の急所に直撃するが全く怯むことなくすぐさま反撃に転じていた。
「こいつは不死身か?」
自分の攻撃が全く効かないことに驚愕する。だが当の鬼は侍の攻撃は効いていないは
ずなのだがなぜかとても苦しそうであった。
「…なんで苦しそうなんだ?」
鬼から深い悲しみを感じる侍。
「ガァぁぁ!!」
鬼は悲痛に叫びなが侍に襲いかかる。
「なんでこんなに悲しそうな顔をするんだよ」
侍は鬼の悲しみや苦しみそして孤独感じとりとてもやりきれない気持ちになる。もちろん一瞬でも気を抜けば殺されるのは侍の方である。
「このままでは押し込まれる!」
防戦一方になる侍の前を炎の斬擊がくりだされた。
「七流抜刀術神妙剣!!」
「グアァァ!!」
炎の斬擊が鬼に直撃する。
侍の攻撃ではビクともしなかった鬼がたった一撃で倒れてしまう。
鬼の前に少女が立っていた。
黒い髪に青白い着物、血みどろの手には炎のような赤く染まった刀が握られていた。そして少女を守るように神々しい炎が体を包みこんでいた。
その姿は恐ろしくも儚く美しかった。
少女は鬼にとどめをさそうと刀を構える。
「待ってくれ!!」
侍は少女に叫んだ。
「頼むその鬼を殺さないでくれ!!」
「正気か? お前は今こいつと殺し合いをしていた。 しかもここは戦場でこいつは敵なのだぞ。 それにこんな化け物を生かしておいていいことはない」
少女は呆れた顔で侍を見る。
「それでもそいつを殺さないでくれ」
「きさまは西軍の人間か?」
「東軍、黒田家の者だ」
「…一応は味方だな。 ならばそこをどけ敵は殲滅しなければならない」
侍は少女を見据えて刀を構えた。
鬼を一撃で倒してしまうほどの実力を持った者に勝てるはずはないのだがそれでも侍は少女の前に立ちはだかる。
「なんの真似だ?」
「こいつは殺させない」
「私の前に立ちはだかるなら容赦はしないぞ。 邪魔をする人間はもれなくぶち殺してきた」
放たれた殺気で大気が揺れ動いた。
侍は恐怖で足が震えるのを必死にこらえ何とか逃げ出すのを踏みとどまる。
「こいつも俺たちと同じ人間だ!」
「違うそいつは化け物だ。そして私もな」
少女は悲しそうにつぶやく。
「人間だよ。 泣いたり笑ったり悩んだりして精一杯に生きている大事な命だ!」
「大事な命?」
「そして命には使い道がある。 たった一つの大切な命を無駄に失うなんて悲しいだろう」
「命の使い道だと・・・」
侍の言葉に動揺する。
「うるさい! 邪魔をするならお前も斬る」
少女は侍に斬りかかるが迷いがあるのか圧倒的な威力はなかった。
侍も鬼との戦闘で疲弊はしていたが何とか攻撃を防ぐことはできた。
「なぜ殺せない?」
なかなか倒せない事に戸惑う。
いつもであれば三回は切り刻んでいる相手である。
遠くにある西軍の陣から煙が上がる。軍の大将がいる陣から煙りが上がるということは戦いの終わりを意味していた。
「どうやらここまでのようだな」
少女は刀を鞘に収めると侍をにらみつけた。
「お前の名前は?」
「武藤禅宗。 君は?」
「私の名は美琴だ」
美琴は少し微笑む。その表情は年頃の普通の女の子であった。
「変な奴だよ。お前は」
美琴はそのまま自軍の方へと帰っていった。
「あ~死ぬかと思った。全く勝てる気がしなかった。 あれが噂の炎滅の巫女か。 やっぱり神具使いはヤバすぎるな」
禅宗は鬼を抱えるとよろよろと歩き出す。
「こいつのせいで命令は果たせないし神具使いに殺されかけるし踏んだり蹴ったりだよ。 如水様は怒るかな?」
不足の出来事が起こったとはいえ主君の命令を果たせなければ何かしらの責めは受けるであろう。
「何で助けてしまったんだろうな」
考えるよりも先に体が動いてしまっていた。 この事が正解かは禅宗も分からなかったがそれでも心の奥底で何かがこの鬼を死なせるなと言っているような気がした。
「あ~重い」
禅宗は鬼を抱えたまま今だ血生臭い戦場を歩き自陣へと帰ってゆく。
最初のコメントを投稿しよう!