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 そんな訳で、俺はアルファビルの入口付近の塀の上に座って見張りをした。  ちゃっかりユーリも付き合ってくれている。  正直、ユーリは見張りなんてやらないと思っていた。  ――つか、予想通り最初は断られた。  じゃあ、何故ここにいるのかというと……。  「ハッカー」という単語を耳にした瞬間、顔色が変わったのだ。 「なぁ、ユーリ。お前もしかして、ハッカーに興味があるのか?」  ユーリはハーフパンツから突き出した足で石を蹴りながら答えた。 「どうだっていいだろ」 「正直、俺はハッカーってやつに興味あるね。悪いヤツからクレジットかっぱらうキャラバン、お前も知ってるだろ?」 「ドッグ・キャラバン……?」  何に対しても興味なさそうにしていたユーリが、初めて顔を上げた。  鋭い目だが、女みてぇな顔だ。  身体の線も細く、鎖骨が浮き出るくらい痩せている。 「そうだよ、ドッグ・キャラバン以外にねぇだろ」  ユーリは俺の方に近寄ると、いきなり肩に腕を回してきた。 「よぉ、兄弟」 「何だよ、急に」 「ドッグ・キャラバンはヒーローだ」 「たりめぇだ」 「特に……」 「リーダーのガガンバ―だろ?」  あれだけ無愛想だったユーリがニヤニヤ顔で気持ち悪い。  でも、ドッグ・キャラバンの話なんて他のやつにはできない。  だから少しうれしかった。 「大人たちはクソだ」 「ユーリ、分かってんじゃねぇか」 「だからよぅ、フィデリオ、俺たちもやらねぇか?」 「何を?」 「ハッカーだよ、ハッカー。悪者のキャラバンから水を奪おうぜ」 「こういう時だけ調子良いヤツだなぁ」 「何だよ、怖気ついたのか?」 「いや、おもしろそうだ」 「じゃ、利害一致ってことで。ユーリ団結成だな」 「バカ野郎、フィデリオ団だ」  ユーリは俺から離れると飛び跳ねながら周囲を散策した。 「ところでフィデリオ。お前はハッキングってできたりするのか?」 「あー、そうだな。色々理由こじつけてカーチャンから教えてもらった」 「へぇ。俺にも教えろよ」 「ま、いっか。時間もないから基礎だけだぞ」  正直、俺は目を剥いた。  ユーリの家――とはいっても廃電車だけど。  そこでハッキングの基礎や原理を教えたところ、ユーリは瞬時に呑みこみ、しかも短時間で応用して見せたのだ。  僅か数時間のレクチャーで師匠面していた俺は一気に抜かれてしまった。 「あのクレーンを操作して鉄球を落とす」 「さすがに無理だろ」  ユーリはグローブPCを操作すると、予告通り電車の外にあるクレーンを動かした。  クレーンの先につけられた鉄球のワイヤー・ストッパーを操作し、鉄球を落とす。  ガコーン。  すごい音がした。 「真下にいたらペシャンコだな」 「ハッキングで重要なのは知識量と閃きなんだな」  ボソっとつぶやくユーリの目は真剣だ。  普段もこれくらい真面目に手伝ってくれりゃいいんだが……。  俺はユーリの腕を見込み、作戦を立てた。 「ハッカーはアルファビル近くの休憩所に寝泊まりするらしい」 「寝込みを襲うのか?」  俺はうなづく。 「ユーリ、相手のセキュリティ突破できそうか?」 「何だ、フィデリオ。もう俺だよりかよ」 「もうお前の方が詳しいだろ」  ユーリは嘆息しながらも、少しうれしそうな顔でデスクトップPCのキーを弾いた。  味方になるとなかなかに頼もしいヤツだ。  ――と、思った矢先、驚くような現場を見てしまった。 「あれ? このパソコン電源切れねぇぞ!?」 「それは壁紙のマークだ、ユーリ」 「……今、俺のことバカだと思っただろ!」 「何も言ってねぇだろ! まぁ、思ったけど」 「てめぇー! やっぱ思ったんじゃねぇか! バカって言った方がバカだかんな!」 「うるせーバカ! バカ!」  そんな感じで俺らは初めての共同作業を終えた。  なんだかんだ俺らはガキだ。  こんなやり取りが楽しいんだからな。
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