1.趣味の悪い出版社

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1.趣味の悪い出版社

 僕が天野社長に初めて会ったのは、寂れた映画館に併設された、古めかしい喫茶店の中だった。  思えば最初から不思議な人だった。  その日は授業が休講になったので、前から見たかった映画を観るために家から三駅離れた街の小さな映画館に来ていた。大きな映画館では上映されていない、マニアックなサスペンス映画。  バイトしていた定食屋が二週間前に潰れて以来収入が途絶えているので、入場料がちょっと痛かったけれど、好きな監督の作品なので仕方ない。きっちりパンフレットも買って映画館を出た。  併設の喫茶店に入り、奥のテーブルに腰掛ける。一番安いアイスコーヒーを飲みながら買ったばかりのパンフレットに目を通していると、席の前で黒いスーツを着た髪の長い女性が立ち止まった。
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