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“あちら側の世界”は死後の世界ではない。死にたいと思っている人が生きたまま行ける、この世とは別の世界。そして、“あちら側の世界”で作り変えられる。いいえ、生まれ変わる。
稲垣くんを嫌いにならないであげて。ただ、新しい友だちが欲しかったから、青木さんを連れて行こうとしただけ。もしかしたら、一緒に“あちら側の世界”に行けて、同じように生まれ変わって、新しい友達になれるかもしれないと思った。それだけ。
昼と夜の間の逢魔が時に開かれる“幻日の時の門”をくぐることができたのなら――“あちら側の世界”に、行ける。
そして聞こえるのは風と虫の音だけになった。
「なんだか、うまくまとめられちまった感じだけど、あの女の先生。最初から“あちら側の世界”の人間だったんじゃねえの?」
「そうだとしても、それを証明することはできない。と、あの先生なら言うでしょうね。ねえ? 私はあなたと出会ってから、何も変わっていないわよね?」
「ああ。雄平から俺に心変わりしたって言っても、それはやっと俺の魅力に気づいたってことだ」
「これからも?」
俺は黙って玲奈の肩に手を回し、その体を自分の方に引き寄せた。離すものかって感じに。
俺と玲奈は手をつないで無事にそれぞれの家に帰った。
あの二人はまた“あちら側の世界”に行ってしまったのかもしれない。雄平は明日になったら、今日のことは忘れて、別人の顔をして俺たちの前に現れるのだろうか。
そのとき俺は雄平にこう言ってやろう。
“ともだち”って存在にならないか、と。
あいつが昼と夜の間に開かれるという“幻日の時の門”を何度もくぐって“あちら側の世界”から戻ってきても、何度でも言ってやろうと。
<終わり>
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