影 ふたつ

　由紀と結婚する直前、昔つきあっていた女性とひょんなことから再会してしまった。
　そこから関係は再燃してしまい、相手は身ごもった。
　折しも、由紀の妊娠がわかった頃でもあった。

　相手の女性はもちろん産みたいと泣いて司にすがったが、なんとか金銭で解決にこぎつけた。
　後ろめたさよりも、順調な自分の人生が壊される恐怖が勝ったのだ。
　このことは、親にも友人にもだれにも気がつかれなかったはずだ。

　由紀が今頃気がついたとしたらなぜだろう。
　彼女が由紀に接触したのだろうか。

　それともまさか、本当に由紀には衿人の影が二つ見えるというのか。
　男か女かも分からない衿人の腹違いのきょうだいが、衿人に憑いているというのか。

　自分を身ごもりながら堕胎した女にも、それを強要した男にも憑かず、なぜきょうだいに憑く。
　なぜその母親を苦しめる。