影 ふたつ

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 司が去ったテーブルに、由紀は突っ伏した。  辛くてこわくて、涙が出てくる。  結局、なんの懺悔にもならなかった。    由紀には産まなかった子がいる。    司と付き合う前に、付き合っていた上司の子どもだ。  三年越しの不倫の末だった。  妊娠が分かってすぐ、だれにも知られないように堕ろした。  あの頃の由紀は身も心もぼろぼろで、不倫相手を忘れたい一心で司と付き合い始めた。  結婚して司との子も産まれ、ようやく人並みの幸せを手に入れたのに、こんなことになるなんて。    産まなかった子は、ろくに供養もしていない。  衿人を産み、育てている今なら分かる。  あの頃はお腹の子の母親だという自覚も、子に対する想いも全くなかった。  ただお腹の子が産まれてしまったらどうなるのだろうという恐怖しかなかった。  衿人の後を追うように走る影を見るたびに、責められているのだと思った。    せめて司に打ち明けてしまえばと思ったが、それも叶わない。   穏やかに眠る衿人の顔を見て、由紀は途方にくれた。
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