影 ふたつ

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衿人(えりと)の影が、ふたつに見えるの」    私、どこかおかしいのかしら、と由紀は俯いた。    鉛のようなくちぶりだ。(つかさ)は缶ビールのプルタブに指を引っ掛けたまま、妻を見るしかなかった。    衿人は二歳になったばかりの二人の子で、由紀は育休中の専業主婦だ。    衿人は隣の部屋の布団で眠っている。開け放たれたふすまから、その穏やかな寝顔が見え、小さな寝息が夫婦の沈黙の間で音を立てていた。
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