1 はじまり

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1 はじまり

 むかし、むかし、ある国にシェークリーテという大変美しいお姫様がいました。  あまりに美しいので、たくさんの国の王子様から結婚を申し込まれるほどでした。  しかし、当のお姫様はというと―― 「お待ちください、姫様! シェークリーテ様!」  ここは深い森の中。  あわてふためく召使の少女の声が聞こえます。 「そんなに森の奥へ向かっては、みなとはぐれてしまいます。お戻りくださいませ!」  召使の少女は、そう叫んで、必死に一人の女の子、つまりはお姫様を追いかけています。つややかにきらめく黒く長い髪に、夜空のような深い紺色の瞳の、それはもう大変な美しさのお姫様です。  しかし、お姫様なのに、今はドレスを身につけておらず、ぴっちりとした乗馬服を着ています。さらに、お姫様らしくないくらいに、ものすごい速さで走っています。 「そんなの知るもんですか。もう私は城になんか戻らないんだから!」  お姫様は走りながら、怒ったように叫びます。「ああ、そんなことおっしゃらないで!」召使の少女はぜいぜい息を吐きながら、お姫様を追いかけます。 「今頃は騎士や勢子達が、姫様を探し回っているはずです。帰りましょう、姫様。王様もきっととても心配なさっておいでのはずですよ」  青い顔で召使の少女はお姫様に訴えます。  勢子、というのは、王様やお姫様達の狩りの手伝いをするのが仕事の召使のことです。
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