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「仁くん、……どうかな」
「んー。病院には行った方が良さそうだけど、動けないほどじゃないな」
魔術師二人は、断溝が呼んだ警察に連れられて、どこかへ行った。残ったのは僕と喜漸と。
「えーと、大丈夫そうに見せてるけど。傷は結構エグいよ?」
断溝叶多が、そう評価しながら傍に座っていた。
だろうな、と冷静に分析しながら考えていると、藍樹と涼が公園の入口に戻ってきたのが見えた。彼らもまあ、僕を放っておくことは出来ないらしい。
「ときに、」と声を掛ける。「断溝、お前なんで夏休みの最中に制服な訳?」
真っ先に浮かんだ疑問だった。
夏休みの終わり頃の今、特に学校に出る用事も無いはずで、であれば彼女が制服でいる理由はないのだけど。
「…………それは、内緒」
「内緒に、するの? みんなに……バレてるのに」
「う」
喜漸の指摘が痛かったようだ。苦々しい顔で視線を外してしまった。
「その、あの」
狼狽えている彼女を見ていると、その腹が盛大に音を立てた。空腹も度が過ぎると収まるらしいけれど、それは次にもっとキツい空腹が来るだけのことだった。
断溝はその朱色の髪と変わらないくらいに顔を真っ赤にして、俯いてしまう。
「あー。断溝、朝は何か食べてきたか?」
そう質問したと同時に、藍樹が近寄ってきて、手に提げている袋を寄越す。中身は傷の応急手当セットだった。
「今回も派手にやられてるな。なかなか凄い絵面だぜ?」
「ああ、仕方ないさ。助かるよ、こういうの」
自分で絆創膏やら包帯を取り出して、全身の傷に当てていく。自分で処置をするくらいはいい加減に覚えてしまっていた。無駄な技術ではないからいいんだけど。
「で、そっちは?」
聞いていたのだろう、藍樹は話を戻していた。僕と涼も断溝の方を再び見遣る。
「…………うう、お腹空いた」
「あ、そう。少し早いけど、昼飯にしよう」
そう言うと、彼女は困ったように見上げてくる。その隣で喜漸がその頭を撫でていた。
藍樹はこうなることを見越して、あらかじめ休むかも知れないと連絡を入れていたらしい。どうにも読み切られている様子で、少しだけやりきれない。
先生にしても、それを許してしまうものだから。
「しかし痛いな。痛覚を遮断できれば良いんだけど」
「そんな奴がいたら怖いけどな。バーサーカーにしかならないだろ?」
どこかの店で昼食にしようと提案したところ、断溝が金を持っていないと言ってきた。
「えっと、じゃあ普段はどうしてるわけ?」
「…………我慢してる。出来るから」
「出来てないだろ、足元ふらふらじゃないか。何日食ってないんだ?」
「三日くらい。家には居なかったし」
……………………………………………………………………。
心配とかじゃなくてすぐにでも処置が必要なレベルの栄養失調じゃあないのか。隣で断溝を支えるように歩いている喜漸も、流石に絶句しているし。藍樹も涼も何も言わない。
「…………断溝。お前」
その言葉の響きに彼女はびくりと反応した。反射的なその怯えに、家に戻らない選択肢も正しいと判断できたけれど。
「いや、管理代行者としての報酬は受け取ってるだろ? それで自分の食費くらいは賄えるんじゃないのか?」
「貰ってないよ。全部、妹の育成に回ってる」
「はい?」
「だって、在華が出来が良いから。ワタシに、価値なんて無いから。って、ずっと言われてて、それで」
…………………………。
「やっぱりお前、飯食ったら家に来いよ。放っておけるかそんなん」
「…………え、そんなの、迷惑なんじゃ」
「あははっ、兄ちゃんって本当そういうところ見境ないよね。お人好しが度を過ぎてる感じ、頼りになるよ」
涼の台詞は誉めているのか貶しているのかよく判らない。
「そうやって周囲ばかり窺うなよ、損しかしないぞ?」
叶多は俯いてしまう。前髪が垂れ下がって表情が読めなくなってしまった。
「じゃあ、どこに行こうか」
「安いもんで。金ないし」
藍樹の言うことも分かる。僕も小遣いの残りはあまりない。
「うーん、じゃああれは?」
と、涼が指を差した先にあるのは。
『ラーメン大食いチャレンジ!』
『二キロラーメン三十分で食べれば無料』
「大丈夫かよ、涼。僕はこれ怪しいんだけど」
「まあ、食べられなければ逃げるだけだし」
それは犯罪行為だろうが、止めてくれ。と、止めてみたものの既に全員分涼が(先走って)注文してしまったし、どうにかして食べきらなければならないのだけど。
食べきれなかったら一杯三千円だからなあ。
「なあ、断溝。無理そうなら」
「その前に、白羽君。苗字では、呼ばないで欲しいな」
「ん?」
「ワタシ、自分の苗字、好きじゃないから。名前の方がいいから」
「そうか? じゃあ、叶多……あまり無理しないようにな」
「でも、無理をしないとどうなるの? 仁君、お金出せる?」
出せないよ、と即答した。こんな莫迦な行為で親を呼ぶのも決まりが悪いし、何か考えないとな、と思っているうちに注文した品が出てきた。
どん、と効果音でも付きそうな大型の丼に入った重量二キロのラーメン。
…………意外と大きいな。胃の容積オーバーしてねえ?
店員がストップウォッチを出して時間を計測し始める。開始の合図だ。
さて、と箸を持った僕だったが…………。
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